脱創業家、株主・社員を味方に

 さらに安田氏は、社外取締役やアクティビストファンドなどの声を聞き入れながら、ガバナンス(企業統治)体制を整えた。

 「社外取締役4人を招き、昨年から監査等委員会設置会社に変え任意の指名・報酬委員会も設置した。資本効率向上に向け自己資本を100~200億円圧縮する目標を設定した。M&A(買収・合併)などの予定がないなか1000億円を超す資本の規模ではステークホルダーに対して説明が付かないですからね」

 安田社長の就任後、サンゲツの株価は4割弱上昇。ガバナンス改革を通じて金融市場を味方に付けた。更に、社内へも配慮した。

 「日比家のトップダウン経営から変わり、これからは社員が中心となって会社を運営するのだとメッセージを出しました。ストック・オプションを管理職など300人超に付与し、給与・人事含めて体制を変えた。昔からの会社を知る40歳代以上は変化の大きさに驚いているが、自分たちも経営陣に入れるチャンスだと思い始めた。良い方向に進んでいる。経営に創業家が顔を出すという事は、もう絶対にないと断言していいですね」

 オーナー経営からの卒業を進めたサンゲツ。長期政権を築いたカリスマの賢昭氏が亡くなり、残った日比家のメンバーには家業への執着よりも、大きくなりすぎた会社の経営に対する不安の方が勝っていた。日比祐市相談役の語る「欲を捨てた境地」に至ることができた。

誰もが完璧には振る舞えない

安田社長は株主や社外取締役の声に耳を傾け、組織的経営への移行を進めた
安田社長は株主や社外取締役の声に耳を傾け、組織的経営への移行を進めた

 安田社長も、株主や社員を巻き込み組織的なガバナンス体制を築くことで、「創業家vs社長」という対立構図を避ける事に成功した。自らも後進に経営の座を譲るワンポイント継投としての立場を強調する。

 創業者は欲を抑える。社長は組織的経営を進める。この2つの要素が機能して創業家からの上手なバトンタッチが成立する。

 しかし、人間は常に完璧には振る舞えない。創業者は家業への執着とプライドが邪魔し、社長側も自らの権力基盤を固めようと周囲の有力者を押さえつけ、組織経営から遠ざかることもある。21世紀になって10年以上たつが、未だに大会社のお家騒動がニュースを賑わす。

 6月20日号の「ストップ 暴走社長」では、ガバナンスという形式だけでは抑えきれない人間の性を認めつつも、対処法を追い求める企業や経営者の姿を詳しく特集する。