株主総会シーズンを迎え、コーポレートガバナンス(企業統治)への関心が高まっている。セブン&アイ・ホールディングスやLIXIL、セコムなどでトップ交代が相次いだこともあり、コーポレートガバナンスを強化する上で重要な役割を果たすとして期待されている社外取締役についても、その存在意義については賛否両論が絶えない。コーポレートガバナンスの究極の目的は、社長が暴走しそうなときにブレーキをかけることにあるとも言われる。そのためには、どのような仕組みを導入したら良いのか。日経ビジネス6月20号では、「ストップ 暴走社長 経営者が語る『我が抑止術』」と題した特集を組んだ。

 日経ビジネスオンラインの特集連動連載の第1回では、高齢・長期政権が抱えるリスクについて考える。経営者が高齢で、かつ、長期にわたってトップに君臨し続けるほど、引き際が難しくなる。過去10年ほどにわたって、後継者問題に悩み続けてきた自動車部品メーカー、ユーシンの田邊耕二会長兼社長(82才)が、思いを打ち明ける。

 ユーシンの田邊会長が、後継者問題に悩み始めたのは今から10年ほど前のことだ。創業家出身の2代目である田邊会長は、健康への不安を背景に、投資ファンドに出資も受け入れる形で後継者社長の派遣を依頼。しかし、招聘した社長は様々な問題を起こし、田邊氏は再び社長に復帰した。その後、社長の社外公募を2回実施し、1回目の公募の際は実際に社長候補を採用するも満足できず、2回目は採用まで至らなかった。「社内には人材がいない」という考えは一貫しており、結局、自ら会長兼社長という形でトップを続けている。

後継者問題について語るユーシンの田邊耕二会長兼社長(写真:陶山勉)
後継者問題について語るユーシンの田邊耕二会長兼社長(写真:陶山勉)

過去、田邊会長には数回、後継者問題をテーマに、日経ビジネスの「敗軍の将 兵を語る」などに登場してもらっています。現状、後継者選びはどのような状況ですか。

田邊耕二会長兼社長(以下、田邊):うちの会社はかつて国内販売が主だったのですが、(2013年に仏部品大手ヴァレオから一部の事業を買収して、)世界中の自動車メーカーへの売り込みが成功したんですよ。それで、今では売り上げの65%が海外になりました。

海外に打って出ようというのも、田邊会長ご自身のアイデアですか。

田邊会長:そうですね。

英語が話せないと後継者は務まらない

社内で、田邊会長以外にそういうアイデアを持っている人はいなかった。

田邊会長:いなかった。どうして誰もそういうアイデアを持っていなかったのか、それは分からないです。

後継者選びは、2度の社長公募でもなかなか田邊会長のお眼鏡に叶う人がいませんでしたね。

田邊会長:今、専務と常務がいるんですが、専務は英語ができませんが、常務はペラペラなんですね。その常務は今年2月に、メーンバンクである三井住友銀行から招きました。銀行として推薦したいという事でしたので。実力は今後、1年くらい見ないとよくわからないですが、現状では唯一の後継候補です。

 売り上げのほとんどが海外ですから、後継者は英語ができないと不便ですよね。その点、彼はロンドンにいたこともあり、英語が堪能。海外事業を上手くやれば、うちはどんどん大きくなれると思います。海外の競合に対して優位な製品を作り続けていれば、いくらでも伸ばせる。

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