さらに、誰が原発の廃炉、放射線汚染物質処理に関わるコストを負担するかという問題がある。RWEを始め、ドイツのエネルギー会社の原発の廃炉にかかる費用は巨額だ。

深刻化する人材不足

 現在稼動の原発が、2022年までに停止した際にでると概算される約1万立法メートル以上にのぼる放射線汚染物を処理し収納保管する場所も、決まっていない。原子力発電の専門家は、この設備だけで23億ユーロ~35億ユーロ(約2900億~約4420億円)が必要だと試算している。

 2014年時点で、中立の立場から原子力発電の専門家たちは、メンテナンス技術を高めてさらに38年原発の稼働を延期し2060年まで稼働した場合のシミュレーションを実施した。

 その結果、総放射汚染物質は、約1万8000立法メートル。今後技術進歩により安全信頼度をさらに向上させた処理設備追加も可能になってくると仮定すると、現在の原発稼動を延長継続した方が、汚染リスク率は、縮小するという見方さえも出てきている。

 深刻なのは、脱原発を発表したことにより、原子力について学ぼうとする若手が急減してきている。既に、ドイツの大学の物理学部原子力エネルギー専門課程の講義、研究費などの予算は削られ、カリキュラムも軒並み消えていっている。

 現在は、アーヘン工科大学とドレスデン工科大学の物理学部に小規模の後進指導育成コースのみが残る。現在稼動している原発の安全な廃炉と、すでに集積している放射能汚染物質を安全に処理、収納管理できる人材は、今後も不可欠だが、先行きは暗い。

 ある原子力物理エンジニアを目指す学生いわく:ドイツで、核物理を専攻しているというと、原発推進派と誤解され、周りからすぐにいやな顔をされるが、留学した米国では、全く雰囲気が違い、「原発の詳細技術を知らなければ、賛成も反対もできない。原子力についての勉強は、がんばって!」と、この分野を学ぼうとする人には、エールがおくられると言う。

 原発反対が故に、安全な原発終息技術を学ぼうとするこの学生自身、原子力を正しく理解する学びの場が閉ざされつつあると感じている。

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