「脱原発を国の政策として決定したのだから、国民もコストを負担するのは当然」という見方は、確かにある。しかし、問題は、この種の国民への負担が増え始めていることだ。
同じくエネルギー会社で、ドイツで事業展開するスウェーデンのヴァッテンファルは、ハンブルグの国際業務に関する弁護士事務所ルッターと組み、ドイツ政府に対し、35億ユーロ(約4420億円)にのぼる損害賠償を請求している。国際調停のため、中立地米国ワシントンで調停が行われ、ヴァッテンファル側、ドイツ政府側、双方にさらに米国の弁護士が参加している。
余談だが、米国の弁護士の報酬は、1時間700ドル(約7万8000円)。訴訟相手がドイツ政府なので、莫大な金額を公庫から引き出せるとのコンツェルン側と米国の弁護士たちのもくろみもある。政府を相手取った訴訟は、ここ数年、米国やカナダでも増えている。
再生可能エネルギー発電移行で上昇する電気料金
国民の負担はこれだけではない。再生可能エネルギー発電への移行に伴い、一般電力料金の値上がりにも、直面している。
例えば、再生可能エネルギーの代表格である風力太陽光発電は、余剰電力を売電できることから電力料金を抑えられるといわれてきた。ところが、ドイツで現実に起きているのは、その正反対の現象だ。平均電気料金は、値上がり傾向にある。電気料金は、原発降板を発表した後の2012~2013年には、急上昇している(下のグラフ参照)。ドイツ連邦内の電気料金の加重平均をとると28.81Cent/Kwh(約36.2円/Kwh)と、EU加盟国内では、非常に高いことがわかる。
なぜこのようなことになるのか。それには、ドイツ国内の人口分布と経済集中分散状況が、深く関係している。再生可能エネルギー発電による売電は可能になったが、それができるのは、大都市以外の過疎地域だけ。一方、大部分の人口は、都市部に集中している。街のど真ん中に風車、太陽光パネルパークを設置することは、非常に難しいので、都市部では、依然として、火力発電・原発に依存する構造が続いている。
さらに、メルケル政権は、工場など大量の電力を消費する企業に対しては、電力料金を割り引く優遇措置をとり、そのしわ寄せを一般家庭の電力料金に上乗せして、バランスする構図を展開している。
確かに、ドイツの風力や太陽光発電量は、技術革新によって順調に伸びてはいる。現在、ドイツの総発電量の25%は、風力をはじめとする再生利用可能エネルギー発電となってきている。
一方で、これらの電力を効率的に配給する送電線網が確立していないため、せっかくのクリーン・エネルギーをドイツ国内の需要に充てることができずにいる。ドイツ国内の送電線にのせきれない余剰電力は、ドイツ側が手数料6セント/Kwh、(約7.5円)払い、ノルウェー、オーストリアに引き取ってもらっている。
両国は、この電力で、水をダムまでポンプで吸い上げ、水力発電に活用している。そして、現状は、当のドイツ国民は、いまだに、エネルギーコンツェルンの火力発電と原発に頼らざるをえないでいる。
しかも、RWEのような電力会社はこの状況を利用。電力料金を下げずに、「従来の石炭褐炭発電と原発のバックアップがないと、風力・太陽光発電だけにたより起こりうるBlack-Out(停電)は避けられない」というスタンスをとり続けている。
連邦エネルギー・水力発電協会の資料(下の円グラフ)によると、28.81Cent/Kwhの内訳は、発電コスト25%、メータ読み取り等の消費量管理費23%、2011年に設けられた再生可能エネルギーEEG法で導入された諸税金52%である。今後、コンツェルンによる訴訟プロセスが長引き、費用がかさむと課税金額が増え、電気料金は、上昇し続けることになる。
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