

「初心者向けからヘビーユーザー用まで色々なデバイスがあるし、フレーバーも何でもある。ゆっくり選んでみてよ」。そう言うと長髪の若い男性店員は強烈な「爆煙」を気持ちよさそうにはき出した。4月中旬、英国・ロンドンで取材に訪れた電子たばこの専門店「House of Vapes(電子たばこの館)」での一幕だ。
同店はロンドンでも有名な専門店の1つで、平日の午後にも関わらず店内は多くの客で賑わっていた。外回り中のビジネスマンや品の良い初老の女性、ヒッピー風の若者など様々。ただ、薄暗い店内は白くかすみ、柑橘系の甘い香りなどが立ち込める。同行した日本たばこ産業(JT)の広報担当者も、「これは、すごいですね……」と呆然とするほどのインパクトだった。
市場は2030年に5兆円超
電子たばこは特集で紹介したように、市場環境が厳しさを増す紙巻きたばことは対照的に、急成長している新分野の製品だ。専用機器に内蔵された電熱器でニコチンや香料を溶かした液体を加熱して吸引する仕組みで、吐き出すのは煙ではなく蒸気。そのため、電子たばこを吸う行為は「Smoke(煙を吸う)」ではなく「Vape(蒸気を吸う)」と表現される。ちなみに、日本ではこうした液体タイプの電子たばこは法律上、医薬品・医療機器に該当する。

英ユーロモニター・インターナショナルの試算によると、電子たばこの市場は全世界で2014年に70億ドル(約7700億円)で、2030年には510億ドル(約5兆6600億円)に拡大する見通し。英国は米国に次ぐ2番目の市場と目されており、専門店だけでなく多くのコンビニエンスストアなどでも扱われている。
電子たばこが普及しているのは、健康リスク低減の可能性や、コストパフォーマンスの良さが消費者に受け入れられているためだ。科学的な検証が不十分という面はあるものの、各社は紙巻きたばこに含まれるタールなどの有害物質が、電子たばこでは発生しない点などをPR。さらに紙巻きたばこと比べて税負担が低いケースも多く、相対的に店頭価格が抑えられているという点もある。
電子たばこの特徴は製品だけではなく、その市場の成り立ちにもある。寡占化が進む紙巻きたばこと異なり、電子たばこは無数のベンチャー企業が参入し、新商品を積極的に展開することでユーザーを獲得してきたのだ。機器の仕組みは必ずしも精密機械のように複雑なものではなく、従来は規制も整っていなかった。参入障壁の低さが市場拡大を後押ししてきた面がある。
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