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縁起に基づいた企業の良心

 以前、私が高野山奥の院を訪れた時、様々な「企業墓」がずらりと並んでいるのを目にした。これは、故人となった経営者やOB、ステークホルダーに感謝の念を込め、御霊を合祀したものである。まさに、縁起に基づいた企業の良心がそこにあった。その中には、日産の企業墓もあった。

高野山で見つけた日産の企業墓。シャープの墓も

 しかしながら、残念なことに、スバルやスルガ銀行、日産は企業の良心を見失ってしまったのだ。

 そもそも社是の歴史を遡れば、社寺建設を手がけた金剛組が定めた「職家心得之事」が古い。金剛組の創業はなんと西暦578年(創業1440年)。世界最古の企業だ。金剛組は、四天王寺などの数多の古刹を手がけてきた。職家心得之事は江戸時代中期、第32代金剛喜定の遺言である。そこには、以下のような16カ条が記されていた。

 
  • 一.儒仏神三教の考えをよく考えよ
  • 一.主人の好みに従え
  • 一.修行に励め
  • 一.出すぎたことをするな
  • 一.大酒は慎め
  • 一.身分に過ぎたことはするな
  • 一.人を敬い、言葉に気をつけよ
  • 一.憐れみの心をかけろ
  • 一.争ってはならない
  • 一.人を軽んじて威張ってはならない
  • 一.誰にでも丁寧に接しなさい
  • 一.身分の差別をせず丁寧に対応せよ
  • 一.私心なく正直に対応せよ
  • 一.入札は廉価で正直な見積書を提出せよ
  • 一.家名を大切に相続し、仏神に祈る信心を持て
  • 一.先祖の命日は怠るな

 第一に、儒教や仏教、神道の理念を大事にせよと説き、最後にも先祖の命日には感謝の念を捧げよとしている。興味深いのは「入札は廉価で正直な見積書を提出せよ」。仮に顧客を欺いて利益を上げたとしても、お天道様がちゃんと見ていて、結局は事業に失敗するということだろう。

 これを仏教で「因果応報」という。この社是は現在の金剛組でも、翻訳し直され、受け継がれているという。

 日本における資本主義の祖と呼ばれる渋沢栄一も、やはり企業活動における精神論を大事にした人物だ。例えば「士魂商才」を提唱した。直訳すれば、商売には、商才に加えて武士の魂が必要であるということ。わかりやすく言えば、商売において卑怯な手段は使うな、ということになろう。

 こうした「日本型経営」が、戦後の経済成長を支えてきた。しかしながら、グローバリズムの名の下に、合理化が図られ、次第に企業の持つ精神性が失われてきつつある。

 今の多くの大企業はコンプライアンス遵守、様々なハラスメントの防止などを徹底しているが、形骸化しているように思う。実態として目先の利益や、立身出世のために、他者を踏み台にしてはいまいか。

 ゴーン氏の問題が事実なら、グローバリズムの広がりとともに、古きよき日本型経営の心が失われた結果だと思う。それは一人の経営者の問題ではない。日産の体質そのものが問われており、行きすぎた資本主義の澱のようにも見える。同様の問題はどの企業にも潜んでいる可能性がある。

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