後者の「相手に失礼」について。実際には相手が名刺を捨てるところを目撃するはずがないのだから、相手が失礼に思うわけがない。しかし、相手の「名前」が記載された名刺には本人のアイデンティティが込められているのでは、と相手の心を推し量ってしまうのが人情というものである。そして、名刺がどんどん溜まっていく。

 そこで、同社が2015年から始めた、名刺を手放すきっかけづくり、がこの「名刺納め祭」である。2度目となる昨年冬、東京・お茶の水にある神田明神(正式名・神田神社)で執り行われ、筆者も参加してきた。

本殿でのお祓いで、首を垂れるSansan社員
本殿でのお祓いで、首を垂れるSansan社員

 午後1時。神殿にて、事前に参加登録していた一般顧客30人を集めて名刺の奉納と祈祷が行われた。神職によって祝詞が奏上されると、一般の参加者は恭しく耳を傾け、不要になった名刺と玉串を奉納した。

 境内には「護縁箱」と名付けられた名刺回収箱が3日間設置された。そして、多数の名刺が奉納された。

境内には名刺回収箱が置かれた
境内には名刺回収箱が置かれた

祭典に参加した人たちの反応は?

 祭典に参加した人々の声を紹介してみる。

 「知人にこのイベントを教えられて訪れました。名刺を祈祷するところなんてあまり見られるもんじゃないですから、貴重な機会になりました」(アルバイト女性、26歳)

 「捨てられなかった名刺を20枚ほど奉納させてもらいました。名刺を奉納することで、普段考えることのない『人と人とのつながり』を意識できてよかったです」(会社員男性、47歳)

 「今回、名刺を持参するために整理をしていたところ、しばらく会っていない方の名刺が出てきました。その方の顔を思い浮かべたり、改めてこの1年、色々な出会いがあったんだと実感しながら100枚ほど奉納させていただきました」(会社員男性、30代)

 名刺納め祭に参加したSansanのブランドコミュニケーション部長・田邊泰はこう語る。

 「名刺は人と人との出会いの証です。そういう意味では名刺はただの紙ではない。名刺は、その人の分身でもあると思うんです」

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