イエバエは魚粉に替わる夢の代替昆虫
ハエで育てたマダイは、魚粉100%で育てたマダイに比べて成長が早く、色が鮮やかになることも実証されている。魚粉に替わる夢の代替昆虫がイエバエというわけだ。
さらに、イエバエは世界食糧危機の切り札としても注目されている。2017(平成29)年、世界における飢餓人口は8億1500万人と言われる。アフリカ大陸を中心とする食糧難の地域で、畜産、漁業のニーズの拡大は急務である。イエバエを使った食糧危機回避策も、今後、大いに注目が集まることだろう。
ムスカの事業は、まさに一石二鳥かつ、未来型のビジネスモデルと言えるのだ。
だが虫を使ったビジネスとは言え、大量の命を奪っていることにはかわりがない。先述のように2匹のペアのハエが4ヶ月後には20万匹にもなるわけだから、45年間の開発期間を有する同社におけるハエの犠牲は計り知れない。
仏教では輪廻を説く。ハエは昆虫の分類群では、双翅目(ハエ目)に分類され、その数は12万種にも及び、地球上で最も個体数の多い昆虫のひとつであるから、人間界から畜生界へと堕ちた肉親や友人が、来世でハエになるケースも大いに考えられる。また、仏教の信者には、守るべき五戒のうち最も大切な「不殺生戒」が与えられている。
有り難くハエ様の命を頂いている──。串間さんや社員は常にハエの御霊に手を合わせ、感謝の気持ちを表現しているという。宮崎県都農町の同社研究所内には供養塔も設置し、事業拡大の際などの節目には、地域の神職を呼んで祝詞を上げてもらっているという。
「我々はハエによって事業が継続できていることへの感謝の念はもちろんのこと、ハエは人類の財産であり、その命は粗末に扱えないと考えています。ハエがいなければ、人類は存続できない可能性すらあるんです。『一寸の虫にも五分の魂』と言いますが、私は生きとし生けるものすべてに魂は宿っていると信じています」
串間さんは虫はおろか、植物にたいしても命が宿っていると考える。ムスカの前身の会社で、機能性野菜の開発に携わってきた頃、関わりのある農家からよく、
「元気に育てよ」
「見事なトマトだ」
などと、野菜を褒めたり、前向きな言葉をかけるとよく育ってくれるという言葉が耳に残っているからだ。同様に、モーツァルトなどのクラシックを流すと、やはり作物の生育によい影響を与えるという研究もなされている。串間さんは一寸の虫、草木に至るまで、「意識」のようなものが存在していると考えている。
「ハエと人間の遺伝子は70%同じなんですよ。死後世界はハエにだってあるはず」
※本稿は筆者の最新刊『ペットと葬式 日本人の供養心をさぐる』(朝日新書)から一部、コンテンツを抜粋し、再編集したものです
記事の公開後、一部の表現を変更しました。 [2018/10/23 15:00]

「うちの子」であるペットは人間同様に極楽へ行けるのか? そう考えると眠れなくなる人も少なくないらしい。仏教界ではペット往生を巡って侃侃諤諤の議論が続く。この問題に真っ正面から取り組んで、現代仏教の役割とその現場を克明に解き明かしていく。筆者は全国の「人間以外の供養」を調査。殺生を生業にする殺虫剤メーカーの懺悔、人の声を聞く植物の弔い、迷子郵便の墓、ロボットの葬式にいたるまで、手あつく弔う日本人って何だ!?
朝日新聞出版刊、2018年10月12日発売
Powered by リゾーム?