イエバエを使って肥料や飼料を生産
ハエの高いゴミ処理能力は、その生命サイクルの速さ、繁殖能力の高さとも関係している。イエバエは卵を産んでから孵化するまでがわずか8時間。さらに1週間以内で、幼虫からさなぎへと変態していく。ハエの雌は一生で500個程度の卵を産む。1対のハエが全て生存したとするならば、その合計は4ヶ月後には20万匹にもなるという。
このイエバエの特性に注目したのが、同社であった。同社の前身会社である先代社長が20年ほど前、ロシアから宇宙開発において研究されてきたストレスに強いイエバエを取り寄せ、改良を重ねてきた。
旧ソ連では宇宙に長期滞在するための食料循環サイクルをハエに見出そうとしていたという。人糞の処理をハエに任せ、さらにそのハエを貴重なタンパク源にするという画期的な計画だった。
この発想をムスカではハエのエサを家畜の糞に置き換えた。糞をイエバエに分解させれば、短期間のうちに農業用有機肥料に100%リサイクルできる。さらに、その過程で増殖する幼虫(ウジ)を集めると、養殖魚の格好の飼料になるという。
イエバエを使った肥料や飼料の生産過程は実に合理的だ。ウジのエサとなる動物の糞尿は酪農家を通じて安価に手に入れることができる。通常、家畜糞尿を堆肥化させるには3~6カ月かかるがイエバエを使うとわずか1週間で済むという。
さらに、ウジはさなぎになる時には自ら糞の外に出てくる。ベレットの上に糞尿を置き、ハエの卵を接種。分解処理が終われば自然とウジが這い出て、ベレットの下に落ちてくる。そのため、ウジの回収は簡単だ。
現在、養殖業で不可欠な魚粉飼料の価格が近年高騰している。20年前に1kg当たり50円以下であったものが、2015年には300円近くまで高騰している。理由としては、中国をはじめとする新興国の海産物の消費量が増え、飼料の原料となる魚粉の需要が伸びていること。同時に、魚粉の主原料になるカタクチイワシやアジが枯渇してきたことが挙げられる。つまり現状の養殖業では、魚で魚を育てるという矛盾と無駄が生じているのだ。
コストをかけずに養殖魚を育てるための飼料の調達は、日本の水産業界において急務になっていた。
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