先祖代々の墓にシロアリのなきがら

 なんと、鎌田家の墓には先祖代々の遺骨に加え、シロアリのなきがらを納めているという。

 供養では住職に「害虫有害鳥獣供養塔」と墨書きしてもらった札を祀り、読経と焼香をする。5年ほど前までは「しろあり供養」と呼んでいた。しかし、最近ではニーズがシロアリ以外にも、スズメバチやムカデ、ゴキブリ、ネズミ、ダニ、ヤスデ、チャタテムシなど多種に渡ってきたために、「しろあり・害虫獣供養」と名称を変えた。

 申し訳ない。ごめんなさい。あなたたちのおかげで私たちは生かされています──。

 鎌田さんは読経の最中は、胸の中でこう害虫に対する謝罪を繰り返すという。

 「一寸の虫にも五分の魂という言葉がある通り、害虫にも魂は存在すると信じています。我々が殺生をしていることにたいして、純粋に謝罪をし、感謝の思いを伝えます」

 2017年春は鎌田白蟻社員にとって、かけがえのない機会になった。高野山の奥の院にある「しろあり供養塔」への参拝が叶ったからだ。

 高野山のしろあり供養塔は、業界団体である社団法人日本しろあり対策協会が1971年に建立したものである。

 大きな庵治石に黒御影石がはめ込んであり、真っ白な字で、

 「しろあり やすらかにねむれ」

 と揮毫されている。

 同協会は建立の趣意について、こう記している。

 《(中略) 生をこの世に受けながら、人間生活と相容れないために失われゆく生命への憐憫と先覚者への感謝の象徴であり、会の進展団結を祈念するものに外ならない。(後略)》

 この供養塔には、しろあり以外に、しろあり防除に携わってきた功労者(人間)も合祀されており、現在、120人以上が祀られているという。

 この世界は、人間が食物連鎖の頂点にいるのは確かだ。人間が豊かな社会生活を営むためには、害虫の犠牲は致し方ないところではある。しかし、小さな命にたいしても、思いを馳せることがいかに大事なことか。

 鎌田白蟻の社員たちは1泊2日のスケジュールで高野山に赴き、献花をし、手を合わせたという。

 「線香をあげているとすっと心が落ち着く」

 「善い行為をしていると感じる」

 「供養を終えるとよし、今年も立派に供養できたとホッとする」

 同社の害虫供養にたいし、社員はそんな声を漏らす。

 社長の鎌田さんは最後に、こう言い添えた。

 「しろありの祟りを畏れてという意識はありません。しかし、生き物の命を扱う商売をしている我々は、誰かに常に見られている、悪いことをしているときっとバチが当たるという感覚を持っています。例えば無謀な金額を請求したり、見えないところで施主を騙したりすると、きっと天罰がくだる。そんな思いを抱きながら日々、誠実に仕事をしています」

 供養は、ガバナンスやコンプライアンスの強化に効果あり──。現代社会における、供養の効能が見えてきた。

※本稿は筆者の最新刊『ペットと葬式 日本人の供養心をさぐる』(朝日新書)から一部、コンテンツを抜粋し、再編集したものです。

著者最新刊『ペットと葬式 日本人の供養心をさぐる』

「うちの子」であるペットは人間同様に極楽へ行けるのか?  そう考えると眠れなくなる人も少なくないらしい。仏教界ではペット往生を巡って侃侃諤諤の議論が続く。この問題に真っ正面から取り組んで、現代仏教の役割とその現場を克明に解き明かしていく。筆者は全国の「人間以外の供養」を調査。殺生を生業にする殺虫剤メーカーの懺悔、人の声を聞く植物の弔い、迷子郵便の墓、ロボットの葬式にいたるまで、手あつく弔う日本人って何だ!?

朝日新聞出版刊、2018年10月12日発売