「小さくとも命は命」

 次に害虫の駆除会社を訪ねた。駆除会社もまた、害虫の殺生ありきの事業体である。害虫駆除会社は殺虫剤メーカーのような大企業を形成するところは存在せず、多くが中小企業である。しかし、きちんと虫供養を実施している駆除会社は少なくない。

 静岡県浜松市中区の鎌田白蟻も、長年熱心に害虫供養を続けてきた企業のひとつである。

しろあり駆除の鎌田白蟻

 鎌田白蟻の創業は1976(昭和51)年。高度成長期、続々と住宅がつくられていったのを背景に、シロアリ被害も増えていった時期である。創業者である鎌田雅嗣会長はそこに商機を見出した。

 創業から半世紀近くが経過し、現在では13人の社員を抱えるまでに成長した。静岡県西部から愛知県東部までのエリアの害虫駆除・予防を手がけ、その施工数は年間約3000件にも及ぶという。

 シロアリはゴキブリやトンボと並んで、数億年前の恐竜の時代からその種を維持している生物である。実はシロアリは、一般的なアリがハチ目アリ科である一方でシロアリ目シロアリ科に属する。生物分類学上はシロアリはむしろ、ゴキブリの仲間に近い。

 シロアリは地球上で最も個体数の多い昆虫と言われている。倒木や落ち葉を食料にするだけでなく、プラスチックやゴム、コンクリート、金属まで食べるという。ありとあらゆるものを分解してくれるシロアリは、自然界にはなくてはならない昆虫なのである。

 だが、ひとたび家屋に侵入すると厄介なことになる。近年は、高機能住宅だからシロアリにやられるなんて前時代のこと、などと考えるのはとんだ間違いである。

 シロアリはコンクリートをも侵食し、発泡ウレタンなどでできた断熱材も食べ進んで蟻道だらけにしてしまう。蟻道だらけになった建材に支えられた家屋は、地震などをきっかけにして倒壊の危険にさらされるとも限らない。シロアリは人間社会にとっては、脅威になりうる昆虫なのだ。

 鎌田白蟻では、施工総数の3割強が、新築時に施すシロアリ予防だという。残りが実際に薬剤などを噴射しての害虫の駆除となる。作業が混み合うのは、シロアリが活動を活発化させる毎年4月から11月ごろまで。同時期にはムカデやゴキブリ、スズメバチなどの駆除の依頼も集中する。近年は温暖化のために、様々な害虫が増えているという。

 社長の鎌田信行さんは語る。

 「ある施主様の家では毎日のようにムカデが出て、家主様がノイローゼ状態になられていました。その方はムカデの死骸の数をカレンダーに「正」の字を書かれていて、数を数えたら1年に100匹以上にもなっていました。家主さんは『もうこんな家いやだ、5年も住んでないけど、売ろうと思う』とおっしゃる。そんな時、我々が駆除をして、『出なくなってよかった』と言っていただけるのがやりがいです」

 しかし、鎌田さんは決して、無用な駆除はしないと強調する。

 例えば、過去にこんな依頼があった。

 「家の周りにクロアリが一杯いて、気持ち悪い。駆除してほしい」

 そんな時、鎌田さんは、

 「クロアリはナメクジを追い払い、ゴキブリも食べてくれるいい虫です。殺すより、家の中に入ってこない対策をしましょう」

 と虫との共存を提案する。

 「我々駆除業者は、殺す行為に慣れてしまう傾向があります。しかし、小さくとも命は命です。命を奪わざるを得ない時は、慎重にならなければなりません」

 鎌田白蟻では例年2月、創業家である鎌田家の菩提寺、曹洞宗仙林寺を会場にして13人の社員全員が参加する供養を実施する。その日は、駆除の予約を入れないという。中小企業にとっては1日分の売り上げが立てられないことになり、また、お寺へのお布施も発生するが、

鎌田白蟻のしろあり供養

 「ここまで会社が成長できたのもシロアリのおかげ。そして、我々がやっていることは殺生であることには間違いありません。本当は1年に1度の供養だけでは足りないと思っています」

 と鎌田さんは語気を強める。