私は樹木さんのことをテレビ画面でしか知らないが、この取材を通じて彼女の死生観に興味がわいてきた。実際、樹木さんが「全身がん」を公表された2013年以降、樹木さん自身、死を意識した発信が多くなっていた。

 私は2016年、全国紙に掲載された宝島社の広告が忘れられない。

 それは英国画家のミレイの傑作『オフィーリア』をモチーフにした全面見開き広告であった。オリジナルの作品では、シェイクスピアの『ハムレット』の登場人物オフィーリアが川で溺死しているショッキングな描写が表現されている。

 広告では、樹木さん自身がオフィーリアに置き換わり、水面に「溺死体」として浮かんでいるという実にシニカルなもの。脇には「死ぬときぐらい好きにさせてよ」とのコピーが踊る。そして、こう説明文が添えられていた。

 「人は必ず死ぬというのに。長生きを叶える技術ばかりが進歩してなんとまあ死ににくい時代になったことでしょう。死を疎むことなく、死を焦ることもなく。ひとつひとつの欲を手放して、身じまいをしていきたいと思うのです。人は死ねば宇宙の塵芥。せめて美しく輝く塵になりたい。それが、私の最後の欲なのです」

宝島社の企業広告「死ぬときぐらい好きにさせてよ」
宝島社の企業広告「死ぬときぐらい好きにさせてよ」

自然体で逝った樹木さん

 それから2年。樹木さんはその言葉通り、「疎むことなく、焦ることもなく」、自然体で逝った。

 葬儀の折、長女の也哉子さんの夫の本木雅弘さんが記者団の前で語ったエピソードは、胸を打つものがあった。

 今年に入って余命を宣告された樹木さんは、死出の支度を進めるようになっていった。今回の葬儀会場になった港区の光林寺にも、下見に行くほどの周到ぶりであったという。

 近年、著名人であってもほとんどが密葬形式になっている(「野中広務お別れ会に見た変わりゆく葬送観」参照)。

 しかし、樹木さんの場合、通夜を近親者のみで実施し、葬儀・告別式は広く告知して1500人の参列者がお別れに駆けつけたという。

 「(孫たちに)死に様を見てもらうのが、私の願い」

 臨終時もそう、話していた通りになった。子供や孫が樹木さんの手をさすり、頭をなでる中、息を引き取った。

 きちんと身じまいをし、最期には死に様(生き様)を後世に遺した樹木さん。そこに、とても大事な問いかけがあったように思う。

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