ビザなし交流で北方領土(色丹島)に上陸する際、ロシア人の少女からの歓迎のパンを食べるのが慣例になっている

 前提要件なしに年内に平和条約を締結しよう──。ロシア・プーチン大統領は今月12日、極東ウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムの席上で安倍首相にこう切り出した。

 北方領土問題をめぐっては「入口論」(領土問題を解決しない限り、平和条約は結ばない)と、「出口論」(共同経済活動など日露関係を醸成した後に、領土問題について議論する)が常に存在する。今回のプーチン大統領の発言は唐突な印象があったかもしれないが、これは近年、ロシアが主張してきている「出口論」の延長線上の話である。

 それでも「年内に平和条約を結ぶ用意がある」とロシア側からボールが、日本側に投げられたわけだ。ボールは日本側にある。それをどのように投げ返すのか。あるいは投げ返さないのか。今後の両国の交渉の行方を注視したい。

色丹島を所有していた増上寺

 さて、本コラム「きょうの坊主めくり」において、北方領土問題は一見、不似合いのように思えるかもしれない。だが、実は北方領土と、お寺や神社とは決して無関係ではないのだ。それどころか、驚くべきことに、私の所属する浄土宗の大本山増上寺(東京・芝)はかつて、色丹島を領地として所有していた過去がある。この事実は、北方領土問題に関わる国会議員や官僚、仏教界(増上寺の関係者に至るまで)などの間では、ほとんど知られていない。

 私は近年に3度、ビザなし交流事業で北方領土を訪れている(択捉島、国後島、色丹島)。現地の状況を交えながら、“近くて遠い北方領土”へとトリップしてみたい。

 私が色丹島を訪れたのは2013年8月のことであった。色丹島は根室・納沙布岬から北東におよそ70kmの距離に位置する。24キロ×10キロの長方形の島である。今年2月に福井照沖縄北方担当相が、「シャコタン島」と言い間違ったことで話題になった場所だ。

 島全体が丘陵地帯になっていて、湿原が点在する。そこは高山植物や日本でも絶滅した動植物が存在し、実にダイナミックで美しい情景が広がる。私は択捉島や国後島も訪問しているが、仮に領土が返還されたら、とくに色丹島はエコツアー好きには、たまらない聖地になることだろう。