散策路の整備の目的は、人力車のコースに付加価値を付けることに加え、周囲の混雑緩和などである。だが、それが裏目に出た。従来の小径には、竹穂垣と呼ばれる2mほどの垣根があって、竹やぶとは一定の距離が保たれていた。よほどの長身でなければ、手を伸ばして竹に傷をつけるのは難しい。

 だが、新しくできた散策路には、この竹穂垣がない。そのため、インスタ映えするスポットとして人気を博すいっぽう、こうしたイタズラが絶えないのだ。

 私は竹林のトンネルを改めて歩いて、被害状況を確認してみることにした。

 竹が手に届く範囲のところは軒並み、傷がつけられている印象である。なるほど、確かにひどい。

 英字、漢字、ハングル、幾何学的な模様など外国人の手によるものと思われる傷が多数、確認できた。「嵯峨野の竹林を守ろう」との立て看板の真横に生えている竹には、あたかもその文言に挑戦するかのごとく、竹の上部から下部まで傷がつけられ、ボロボロの状態であった。

 散策路の傷は多くが緑色のガムテープで隠されていた。だが、かえって痛々しい印象を受けた。

 傷がつけられた竹はそこから腐食して、枯れてしまう可能性もあるという。竹は新旧の入れ替わりが比較的早い植物ではあるが、だからと言って許されるものではない。これは、マナーの問題ではなく、器物破損という犯罪行為だ。マナーの問題で済ませず、きちんと警察によって捜査がなされるべきであろう。

 各紙の報道では、外国人観光客による落書きであるという点が強調されていた。一部、その見出しを紹介しよう。

 「京都・嵐山の竹林に落書き相次ぐ 外国語やハートも」(朝日新聞)
 「京都・嵯峨野の竹林で落書き100本 刃物で中国語やハングル」(産経新聞)  「京都・嵐山の竹に外国語で落書き 刃物で約100本に」(共同通信)

 この報道を受け、SNS上では一切に拡散がなされた。特に、中国人、韓国人にたいするマナーの悪さと、誹謗が書かれたツイートなどが多かった。

被害を報じる報道に感じた違和感

 うちの寺に来る中国人や韓国人も、なかには苔の庭に足を踏み入れるケースもあり、その場合は注意を促す。彼らは「苔を踏んではいけない」ということを知らないのだ。だから、注意をすれば、すぐに謝っていただけるケースがほとんどだ。観光マナーのリテラシーは、地元民とのコミュニケーションによって高められる側面はあると思う。

 個人的には今回の報道に、少なからず違和感を抱いてしまった。

 多くがインバウンド、とりわけ中国・韓国人の仕業であるというトーンで書かれていたからだ。たしかに傷をつぶさに見れば漢字やハングルが半分ほどを占めている。

 しかし、同時に京都を訪れる観光客は約半数が中国・韓国人だ。その割合から見れば、中国人、韓国人のマナーの悪さが特段目立っているわけではなさそうだ。

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