豊田英二氏が夢見た理想のエコカー

 取材を進めているうちに記者は、ふとこんなことを思った。「なぜここまでシリコンバレーは、空を飛ぶことにこだわるのか」という点だ。

 取材アポを入れておきながらこんなことを言うのもおかしいのだが、正直、出張する前は、そこまで空を飛ぶ必要性を感じていなかった。記者自身が「クルマの運転が好き」ということもあるが、現時点で既に利用できるクルマや新幹線、飛行機などを使えば、十分に短時間で行きたい場所に行けるからだ。

 そんな疑問を持っていた矢先、クルマ関連のメーカーからシリコンバレーに出向している日本人駐在員が集まる飲み会に誘われた。そこで、こんな話を聞いた。

 「トヨタが目指す理想のモビリティーは『筋斗雲(きんとうん)』」

 「何それ?」。思わずそう口にすると、「え~っ、知らないの?」と教えてくれた。

 筋斗雲はご存じの通り、中国の小説『西遊記』に登場する孫悟空の乗り物だ。雲なので、素材は水蒸気。呼べばどこからともなく現れ、空を飛んで目的の場所まで運んでくれる。いわゆる自動運転だ。ガソリンも電気も使わない(と思われる)。まさに究極のエコカーなのだ。最初にトヨタ中興の祖として知られる豊田英二氏が標榜し、以来、社内で受け継がれている発想のようだ。

 目からウロコが落ちた。なんて分かりやすい表現なのだろう。空飛ぶクルマは古くからずっと、人類が理想としてきた移動体だった。理想を求めるのは至極当然のことで、何ら不思議はない。

クルマが空を飛ぶべき、もう一つの理由

 その飲み会で盛り上がった翌日、空いた時間を利用して参加メンバーの一人の職場にお邪魔し、空飛ぶクルマについて再び議論(というよりは雑談)した。その職場は、「Plug & Play TechCenter」というインキュベーション施設の中にあった。

2年前に<a href="http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/072400019/" target="_blank">シリコンバレー特集</a>を担当した時にも訪れた
2年前にシリコンバレー特集を担当した時にも訪れた
入居者のロゴが壁一面に貼られている。日本の企業名もたくさんあった
入居者のロゴが壁一面に貼られている。日本の企業名もたくさんあった
なぜか玄関に仏像
なぜか玄関に仏像

 「正式な取材なら日本の広報の許可が要る」とのことで、あくまで“非公式”に話していた。すると、その人の顔色が急に変わった瞬間があった。どうやらその人も記者と同じで「クルマは必ずしも空を飛ばなくていい」派だったようだ。

 「なるほど、そういうことなのか!」。2人が納得した理由はこうだ。

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