今年5月、タイのメディア向けイベントに初めて顔を出したLINEの慎ジュンホ取締役。日本ではその存在すらあまり知られていない

 メディアが集まる場に慎が顔を出すのはこのイベントが初めて。過去に一度、ウォール・ストリート・ジャーナル韓国版の電話取材に応じたことがあり、一部の韓国メディアなどは慎の存在や来歴を報じてはいるものの、対面取材に応じたことは一度もないという。

 そのため、慎がLINEの誕生や成長にどう関わったのか、具体的な評伝は皆無だ。しかし、LINEというプロダクトと会社を語るうえで慎を欠くことはできない。

 広く知られているように、もともとLINEは韓国インターネット最大手であるNAVER(ネイバー)の日本法人、ネイバージャパン(当時)が独自に企画・開発したプロダクトだった。本社が「スマートフォン(スマホ)向けメッセージアプリを作れ」と命じたわけではない。

 それどころか、ネイバーは「NAVERトーク」という本社サイドで開発した同種のアプリをあっさりと捨て、グループのグローバルプロダクトとして、LINEを採用することに決める。以降もネイバーは、LINEの企画・開発・運営について日本法人の自主性を尊重し、任せ、本社は人材や資金面での後方支援に徹してきた。

 一般的に、外資系IT企業の日本法人は、プロダクトの企画・開発などには関知せず、営業やマーケティングの出先機関として機能する。対してLINEを生んだネイバーの経営スタイルは、極めて異質だと言える。

 このスタイルの礎を築き、LINEの誕生に大きく寄与したのが、慎だった。慎の来日が「LINEストーリー」のすべての起点と言っていい。

グーグルも狙った慎のベンチャー

 慎はもともと、韓国では「スター開発者」として知られた技術者だった。韓国で著名なオンラインゲーム会社の技術者として頭角を現し、2005年6月には「1NooN(チョッヌン)」という検索サイトを創業メンバーとして立ち上げる。

 「韓国中の天才技術者が集結した」との評判だったチョッヌンは、独自の検索アルゴリズムを開発し、当時、世界を席巻しつつあった米グーグルの侵攻に対抗しようとしていた。慎はここで、CTO(最高技術責任者)を務めていた。

 グーグルはこのチョッヌンを買収しようと動くが、これを阻止したのが、韓国の検索シェアで7割以上を押さえていたネイバー(当時の社名はNHN)である。当時の報道によると、ネイバーは2006年6月、チョッヌンを約350億ウォン(約32億円)で買収。技術とともに、慎ら創業メンバーもネイバー入りした。