LINEの上場まで秒読み段階に入った。10日にも上場承認され、約1カ月に渡るロードショー(投資家向け説明会)を経て、7月中旬、東証1部とニューヨーク証券取引所に同時上場する見通しだ。

今年3月、LINEカンファレンスでプレゼンテーションする出澤剛社長。この時すでに、今夏の日米同時上場を腹に決めていた(撮影:的野弘路)
今年3月、LINEカンファレンスでプレゼンテーションする出澤剛社長。この時すでに、今夏の日米同時上場を腹に決めていた(撮影:的野弘路)

 スマートフォン向けメッセージアプリとして2011年6月に日本で産声をあげてから丸5年。早々に海を超えたLINEは、台湾、タイ、インドネシアなどアジア各国を塗りつぶし、月間利用者数は世界で2億1840万人まで拡大した。

 その軌跡は、成り立ちから成長速度、日米同時上場まで、日本のIT企業としては「前代未聞の連続」と言える。

 しかし、実のところ、LINEがどのような組織なのか、どのような経営スタイルなのか、については、あまり知られていない。その最たるものが、日韓のマネジメントが絶妙に融合した「トロイカ経営」だろう。

 LINEには、社長CEO(最高経営責任者)の出澤剛氏を支える「ナンバー2」が2人いる。1人は取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)を務める舛田淳氏。もう1人は、グローバル戦略のトップ、LINE取締役CGO(最高グローバル責任者)の慎ジュンホ氏だ。

 「慎なくしてLINEを語ることはできない。そして、LINEが誕生することもなかった」――。舛田氏が、そう評する人物である。

 今回、国内メディアで初めてとなる慎氏の取材も含め、これまで語られてこなかったLINEの経営の深部を探る長期の取材を敢行。世界的に見ても極めて独特と言えるLINEのトロイカ経営について初めて掘り下げる。連載初回は、「知られざるナンバー2」の実像に迫る。

(文中敬称略)

すべての起点となった慎の来日

 「このように大勢の記者の皆さんを前にお話しするのは、初めてのことです。自分の性格的に前に出ることが苦手なのですが、たまたまLINEのタイ法人のワークショップへの参加もあってタイに来たので、この場にご挨拶も兼ねてお邪魔しました」

 今年5月3日、タイの首都、バンコクのホテル。LINEのタイ法人がパートナー企業などを集めて開催したメディア向けのイベントに、珍しい人物が顔を見せた。

 LINEでグローバル戦略の責任を負う取締役CGO(最高グローバル責任者)の慎(シン)ジュンホだ。LINEの誕生からこれまで、常にLINEの中枢にいた「超」がつくキーパーソンである。

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