では日本の部品メーカーや素材メーカーは今後、どのような戦略が必要になるのでしょうか。

長島:素材という意味では、鉄鋼メーカーが今後、どんどんつらくなってくる可能性があります。今までは、ハイテン(高張力鋼)に代表されるような機能性の高い材料を素材メーカーが作っていました。既に「付加価値」が材料の中に織り込まれているので、完成車メーカーは最後の組み立てでその分の付加価値を加えずに、簡単に言うと楽をして生産することができるわけです。ところが、この流れが今、変わってきています。

 生産拠点のグローバル化が進んだからです。日本では高機能の材料が手に入りやすいですが、海外ではなかなか手に入りません。そこで、完成車メーカーが普通の材料を購入し、ホットプレスという技術を使って材料の強度を高めることが多くなってきました。

 コスト構成を計算してみたわけではありませんが、付加価値をあらかじめ材料の中に入れるやり方のほうが、全体のコストは抑えられるのではないかと思っています。なのに、逆の方向に行ってしまいました。日本の素材メーカーは世界に冠たる技術力を持っています。これを新興国などに早めに供与していれば、流れは変わらなかったのではないでしょうか。

汗水たらして積み上げてきた技術を海外に出したくないという気持ちが働いたのかもしれません。

長島:その気持ちは分かりますが、もともと高い開発能力を持っているのですから、既存の技術は海外に出し、もっと先の技術を次々に日本で開発していけばいいのだと思います。もちろん、既に多くの鉄鋼メーカーが取り組まれているとは思いますが、もっともっとやることをお勧めします。

自動運転時代のカギ握るユーザーのプール

既存の自動車業界だけではなく、グーグルやアップルといったIT企業との連携も活発になってきています。この動きはどう見ていますか。

長島:先ほどの「付加価値をどこでつけるか」という議論にもつながっています。モノ作りのところで楽をする(コストを下げる)ためには、部品数を少なくすることが重要になってきます。分かりやすくいえば、一つの部品でいくつもの役割を果たせるようにするのです。例えば、1台のカメラがドライブレコーダーとしても衝突防止システムとしても使える、とか。こうしたことを実現するためにすごく大事になるのが「ソフトウエア」です。

 ただし、ソフトといっても様々な種類があります。グーグルやアップルがいくらITに強いといっても、クルマを制御するソフトは不得意です。彼らの強みは「お客さんとつながっていること」。これだけスマートフォンが普及すると、彼らは大量のユーザーIDを保有しているわけです。自動車メーカーにとってはここが怖い。

自動運転時代に、そのユーザーのプールが生きるということでしょうか。

長島:先ほど、クルマを制御するソフトなら自動車メーカーに一日の長があるといいました。でも、それは求める精度によります。精度というのは主に自動運転で走るスピードのことを指します。

 今、都内で走る自動車の平均スピードが、渋滞なども多いですから時速18kmだったとしましょう。自動運転時代になったら、A地点からB地点まで、信号もなく止まらずに走り続けられるとします。この場合、クルマを制御するのはさほど難しくありません。スピードを出さないので、歩行者などとぶつかる前によけられるからです。このくらいなら、IT企業でもできる可能性が高い。グーグルも、低速自動運転車の領域なら、自動車メーカーと組まなくてもできる、と思うかもしれません。

 高速領域なら自動車メーカーの方が得意なので、IT企業と組まないという選択肢もあるでしょう。ただ、自動運転時代にはユーザーのプールを保有していることが重要になります。乗っている人に向けて広告を打ったり役立つ情報を提供したりするサービスが登場すると考えられるからです。

 そのプールを自社のみで作り上げるか、あるいは既に巨大なプールを保有しているグーグルやアップルのようなところと組むか。最近の提携の背景には、こうした事情も関係しているとみています。