燃費不正問題で追い込まれた三菱自動車が、日産自動車の傘下に入る。電動化が進み、自動運転などの実用化が迫る中、自動車メーカーが生き残るには、個性を磨くか、規模を追求するかしかない。日経ビジネス6月6日号の特集では、他業界を巻き込んで繰り広げられる新たな再編劇についてリポートした。

 国境を飛び越え、飛び交う技術と資本――。ヨーロッパを代表する独コンサルティング会社、ローランド・ベルガー日本法人で自動車や石油、エネルギー業界などを担当する長島聡氏に、再編劇の意味と今後の展開を読み解いてもらった。

ローランド・ベルガーの長島聡氏
ローランド・ベルガーの長島聡氏

日産自動車が三菱自動車を傘下に収めたことで、世界の自動車メーカーの2極化がさらに明確になりました。富士重工業やマツダなど、小規模ながら収益性を高めている「200万台クラブ」と、世界シェアで首位を争う「1000万台クラブ」の2つが登場しています。

長島:「1000万台」という数字が出ましたが、数字そのものにはあまり意味がないと考えています。日産自動車のカルロス・ゴーン社長も、(三菱自動車を傘下に入れたのは)「年間販売台数を1000万台にしたかった」というより、「世界で1番大きな自動車会社になりたかった」ことが大きいのではないでしょうか。一定の規模に成長した会社の経営者であれば、世界一願望を持つことは自然なのかもしれません。それ自体を否定はできないと思います。

 500万台の会社と500万台の会社が一緒になったというなら話は別ですが、800万台が900万台になったところで、工場での量産メリットもそれほど変わらない。生産能力が100万台よりも大きな工場なんてありませんから。

 1000万台クラブを目指す理由があるすると、それは新技術を自社開発することではないでしょうか。コネクティッドカーだ、自動運転車だと、クルマはさらなる進化を急速に遂げています。その中で、自社に足りないものがたくさん出てくるわけです。例えば、クルマ1台につき5万円(の稼ぎ)を開発費に投じるとすれば、台数が多いほどたくさんの資金を開発に回せます。そこで数の意味が出てきます。

 ただ、個人的にはそんなことをしなくてもいいのではないか、という気がしています。

系列が残る日本、有機的に連携する欧州

それはどうしてですか。

長島:サプライヤーや他の完成車メーカーと技術交換すればいいと思うからです。そんな動きが欧州を中心に活発になってきています。

 自動車業界における日本と欧州の最も大きな違いは、サプライヤーとの付き合い方にあると思います。日本の場合は「系列」がまだ残っていて、完成車メーカーの望む開発をクローズドな垂直統合の連携の中で一体となって進めるのが一般的です。

 ところが欧州を中心とした海外では、ボッシュやコンチネンタル、シェフラーといったメガサプライヤーがいて、完成車メーカーと対等な立場で付き合っています。完成車メーカーは、「この部分の技術が足りないから開発をお願い」などと、それぞれの領域に強い部品メーカーに仕事を依頼しています。複数の完成車メーカーが同様の開発を同じ部品メーカーに依頼することがあっても関係ありません。ここが日本との大きな違いです。

 日本では、富士重工業やマツダがトヨタ自動車と技術提携するなど、比較的に小規模のメーカーが大規模のメーカーの後ろ盾を得る方法を取っています。でも、欧州ではその必要がない。新技術を開発できるメガサプライヤーに仕事を頼めばいいからです。

そうすると、メガサプライヤーをうまく活用する欧州系の完成車メーカーの方が今後、業界をリードしていく存在になるのでしょうか。

長島:クルマが売れるか売れないかということと、モノ作りにおける戦略が違うということは、一概に関連していると言えません。単純にモノを作る時のやり方の違いでしかないですから。

 ただ、できあがるモノが日本のメーカーと欧州系では違ってくる可能性はあると思っています。欧州流のやり方では、いろんな種類のクルマを比較的短いリードタイムで消費者の元に届けることができます。一方の日本流では、ちょっと時間はかかるものの、擦り合わせの技術で最高性能に寄ったクルマが作れる可能性があります。

 早く手にすることを選ぶか、待ってでも性能を望むか。これを決めるのは消費者です。

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