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 トロッコは、地域社会と来訪者との距離を一気に縮めた。そして、思わぬ効果をもたらすことになっていく。

 地元のボランティア団体連合会会長の松本靖彦は、トロッコから見える地元の風景に顔をしかめた。

 「ちゃんと整備しないと、我々の地域のことが伝わらないと思ってさ」

 山間部の月崎駅と上総大久保駅の間に、荒れたまま茂る竹林があった。そのすぐ横を、観光客を乗せたトロッコ列車が通っていく。

 昨年8月、地元住民と小湊鐵道の社員、そして市原市役所職員の総勢60人が集まった。そして、炎天下の中を4日間かけて、雑木を切り倒して整備した。その中に、木を担いで運び出す石川の姿もあった。

 「造園業者でも請け負いたくない作業だよ。ムリにやらせたら、数千万円は取られる」(松本)

自らの潜在力を発見する

 トロッコ列車が年間を通して稼働した昨年度、養老渓谷駅の乗客数は平均200人近くに上り、24年振りに増加へと転じた。しかも、前年の2倍近い数字となった。

 住民と来訪者が、互いに作用しあいながら、地域が変わり始めている。逆開発は、その流れの延長線上にある。人々は駅を降りた瞬間に、豊かな自然を感じることになる。そして、人が増え、滞在時間が延びていく。

 「開発という字は『かいほつ』という禅の言葉で、自分を気付かせることを言う」。養老渓谷駅に近い宝林寺住職の千葉公慈は、人と人が交錯することで、互いに自分の潜在力に気づくという。地域社会も、来訪者が来ることで、その地が秘めている能力や可能性を発見し、伸ばすことができる。

 「だから、小湊鐵道は『逆開発』と言っているが、実は開発そのものなんです」

養老渓谷駅の森林計画を視察する石川晋平社長。「逆開発に終わりはない」

 自分たちの良さはどこにあるのか──。少しずつ、来訪者と地域の間にある障害物を取り払い、ゆっくりと交錯する時間と空間を作ってきた。列車のスピードを半分以下に落とし、窓を取り払い、アスファルトを剥がしていく。

 そして地域の潜在力を引き出す道が、はっきりと見え始めている。会社の未来も、その先に重なっている。