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 長い期間をかけて、自然の風景を取り戻すために、少なからぬ資金を投入する。1年目こそ、事業費2100万円のうち、地方創成の交付金で1500万円が補助される。だが、2年目以降は小湊鐵道がすべて負担する予定だ。年300万〜500万円の整備費を投じていくことになる。

 「会社のカネで森を作るとは何ごとか」。そうした声を、石川はさして気にかける様子もない。なぜなら、森が再生することは、地域だけでなく、企業経営にとっても有益だと考えるからだ。

自然を使い倒す

 「地域と会社の間に境目を作らなければ、自然の持つエネルギーがバランスシートの資産になってくる。悪く言えば、自然を使い倒す。これは理にかなった事業活動だと思う」

 4月下旬。逆開発が始まって1カ月なのに、すでに木々が成長を始めていた。まだ、全体計画から見れば、ほんの一部しか手がつけられていないが、駅前の風景は大きく変わった。鉄道でやってくる若者や家族連ればかりでなく、クルマで通りかかった人々も、様変わりした駅前に集まってくる。枕木で作られたベンチに腰掛け、緩やかに流れる時間を過ごしていた。

養老渓谷駅前は木々が茂り始め、人々が集まり、風景が一変した
枕木で作られたベンチでくつろぐ

 石川は駅舎の前に石碑を建てた。「逆開発」という大きな文字に続いて、こう宣言する。

 「10年後、ここ養老渓谷駅前は雑木が茂る森になります」

 もう後戻りはしない──。石川が逆開発にこだわるのは、その先に「企業の未来」を見据えているからだ。

 小湊鐵道は全長39kmのローカル線で、市原市の工業地帯や市街地を走る黒字の区間がある一方で、養老渓谷駅を代表とする山間部は赤字が続いている。それを市街地の黒字やバス事業の収益で埋めている格好だ。

 はたから見ると、山間部を維持することが重荷に見える。だが、その地域は、都心にはない経済循環を生み出しつつある。山間部は、ほとんどが無人駅となっていて、駅と地域との境界が分からないほど風景に溶け込んでいる。そして、地元住民がボランティアで駅を清掃し、イルミネーションなどの装飾もして「集客戦略」まで担っている。

 「鉄道を一体として捉えている。山間部を残すことこそ、会社の使命」。そう言う石川は、山間部に企業の価値やポテンシャルが潜んでいると見ている。