独善にならないために

 また、ボードメンバーに属する立場の人間が陣頭指揮を取る場合にもプレモータム・シンキングは有効に機能する。ボードメンバーというからには、楽観と悲観、両面から見ることなどお手のものだろう。逆に、それができたからボードメンバーにもなっているはずだ。

 しかし、どんなに優れた人でも、時に独善に陥り、判断を誤る。さらに、経営者ともなれば、誰かに相談したくても、最終的には自分の判断を頼りにするしかない。こうした時に、意識的にプレモータム・シンキングを取り入れることで、独善の誤りを未然に防げる。

 ボードメンバーや経営者がプロジェクトリーダーになると、リーダーの直感やひらめきがそのままアイデアとなり、新規事業やプロジェクトに直結しがちだ。

 リーダーの直感や閃きの中にあった誤算がそのままプロジェクトの未来の失敗に直結する。チームを組み、プロジェクトを立ち上げてしまうと後戻りしにくいため、失敗の確率は高まる。

 こうした時、プロジェクトチームを立ち上げる前後でプレモータム・シンキングの工程を組み込んでみるといい。

 すると、いつの間にか忍び込んでいた誤算や楽観、緩みなどを第三者の冷静な目で見つけやすくなる。これは、下にいる人間の「忖度」とか「空気を読む」動きを防げるからだ。

 最近ではフラットな企業も増えてきてはいるが、企業の中には雇用する側とされる側が厳然と存在する。そして何らかの評価制度がある。どんなにフラットでも、上位者と下位者のヒエラルキー構造は絶対に存在するのだ。

 こうした構造の中では下位者は上位者に対して感情的な圧力を感じる。自由な意見は下から出にくいし、上に対する忖度や空気を読む動きがどうしても出てきてしまう。リーダーの出したアイデアに論理的な穴が空いていたり、間違いがあったりしても、彼らはノーと言えず指摘もできないまま同意をしてしまうことがあるのだ。ボードメンバーや経営者がプロジェクトリーダーを務める場合はなおさらだ。

 ところが、リーダーから「あえて、プレモータム・シンキングをしてみよう」という明確なメッセージがあれば、その弊害を防げる。たとえリーダーから出たアイデアやプランであっても、下位者から冷静かつ合理的な批判が出しやすくなる。

 さらに、シミュレーションゲームのように感じる雰囲気を作ってやれば、自由な意見はもっと出やすくなる。またリーダーにとっても、自分のアイデアやプランへの批判を受け入れやすくなる。リーダーが面子を失うことなく、下からの自由な批判や意見を受け止め、その上で修正案を全員で冷静かつ合理的に検討することができるのだ。