仲間は盛り上がっているけれど…

 難しいのは、チームや組織でプロジェクトを進める場合だ。

 チームや組織では、当然のことながら複数の関係者が関わってくる。一人ひとりの「甘い見通し」と「狸の皮算用」が幾重にも折り重なってくるわけだ。

 おのずと問題は大きく、複雑になる。

 メンバーの一人ひとりは自分の考えや行動に甘い見通しが入り込んでいることに気づきにくいため、問題はなかなか顕在化してこない。

 また、メンバーが同じ方向を向いて仕事をするため、こうした傾向は増幅してしまう。普段なら気づくような、他人の甘い見通しへの感度が鈍るのだ。

 そして、プロジェクトが中盤に差し掛かったところで、隠れていた問題点がいきなり噴出する。この時点で慌てて対処しようとしても遅い。

 私自身、ベンチャー時代に新しいアプリビジネスを立ち上げようとして、この罠に陥ったことがある。今、冷静に振り返ってみると、なぜ問題点に気がつかなかったのか不思議でしょうがない。

 合理的に考えればかなり早い時点で事業計画の甘さに気づけたと思うのだが、誰も口にすることはなかった。

 スタートした時点では、メンバーの誰もが熱に浮かれていた。きっと同調圧力もあったのだろう。結果として、その後ベンチャーは行き詰まり、ついには倒産することになった。

 こうした組織の「計画の錯誤」によるこじれは、仕事を進める限りどこにでも起こり得る。

 組織での仕事を成功に導くために、ある種の熱狂は必要だ。これを「チーム・ケミストリー」などと呼ぶ。チームの爆発的な力を生み出す化学的融合とでも言えばよいだろうか。チームの中にある種の熱狂とでもいうべき雰囲気を生み出し、その状況下で、メンバー一人ひとりが力量以上のパフォーマンスを発揮し、全体として予想をはるかに上回る成果を出すことだ。経営やコーチングの視点からはとても大事な考え方として知られている。

 しかし、この「チーム・ケミストリー」も、「計画の錯誤」という観点から見ると、注意して扱わなくてはならない。

 メンバーの全員が入れ込んでしまうと、チームとしての「計画の錯誤」が出やすくなるからだ。

 たとえ何か問題があっても、「NO」という文字が誰の頭にも浮かばなくなってしまうのだ。熱狂に浮かれたチームはたやすく「計画の錯誤」の罠にはまる。

 こうしたチーム全体の「計画の錯誤」から逃れるためには、どうすればいいのだろうか。