「認知の歪み」が生み出す停滞

 イシバシくんは、とにかく納得しなければ一歩も前に進めない人だった。

 仕事にはとことん真面目に取り組むが、途中で不完全なデータや結果があると、ガクンとスピードが落ちる。というより、止まってしまう。あることに納得できないと、次のステップに進めず悶々と悩んでしまうのだ。

 しかも、ほかの人との交渉に積極的に踏み出せない。相手に強く言えない人だったことも、状況の悪化に拍車を掛けた。

 このイシバシくんの例は極端だが、少しでも準備不足があると、なかなか次の行動を起こせない人がいる。

 これは米スタンフォード大学の名誉教授でもあり、精神科医であるデビッド・D・バーンズが唱えた「認知の歪み」の一つ、「スプリッティング」という態度を持つ人にしばしば見られる性向だ。

 スプリッティングとは、いわゆるグレーゾーンが全くなく、すべてのことを白か黒に二分する指向性のことだ。この指向性を持つ人は、すべての準備が完璧にできていないと動けなかったり、すべてが完璧でなければ失敗だと考えたりする傾向がある。

 こうした傾向は程度の差こそあれ、誰の中にも潜んでいる。

 人間は準備が整わないまま一歩先に踏み出すことに、本能的な恐怖を感じるものなのだ。あなたの中のイシバシくんが顔を出すのは、たいていの場合、漠とした未知に対する恐怖がある時だ。未来に横たわっているかもしれない失敗に対して、不安や恐怖で足がすくんでしまう。こうなると、冷静であれば見えるはずのものまで見えなくなってしまう。

恐怖の正体を白日の下に引きずり出す

 もしあなたや部下が準備不足などで不安や恐怖にかられ、一歩先に踏み出すことができなくなった時には、ぜひプレモータム・シンキングをしてみることをオススメする。

 イシバシくんのように恐怖にすくんでいる人が、未来の失敗を考えることは難しい。

 しかし何か準備不足などで前に進めていないと感じたら、とにかく試してみてほしいのだ。

 部下が同じところで立ち止まっているような場合には一緒にプレモータム・シンキングするように仕向けるといいだろう。

 プレモータム・シンキングをすることで、未来に潜む失敗が何なのか、そして人を立ちすくませている恐怖の源が何なのかを白日の下に引きずり出せる。

 一歩先に踏み出さずにいることがどんな失敗をもたらすかをリアルにイメージし、その失敗が、自分にどんな影響をもたらすのかを考えるのだ。

 未来の失敗に対する不安や恐怖の正体が見えてくれば、しめたものだ。正体が分かれば、不安や恐怖を客観視できるようになり、多少なりとも冷静さを取り戻せる。同時に、どんな手を打てばよいかも見えてくる。

 イシバシくんの例は、実はとても簡単だ。このまま一歩踏み出さなければ、起こりうる未来の失敗像は、次の2つに集約される。

  1. 販促プランを提出したが、その質が低かった
  2. 販促プランを、期限までに提出できなかった

 ほかにもいくつか浮かぶかもしれないが、ビジネスの観点からせんじつめれば、未来の失敗は「アウトプットの質が低いこと」と「期限に間に合わないこと」の2つに絞り込める。

 そして、それぞれが自分自身とチームにどんな損失をもたらすかを考える。次のようなものが挙げられるだろう。

  • 販促コストがムダになる
  • チームとしての業績が下がる
  • 会社の業績が悪くなる
  • チーム全員の評価が下がる
  • 自分の評価が低くなる