未知への恐怖に立ちすくむ

 イシバシくんは異動してきてから、課題を与えるとコツコツと丁寧に取り組み、きちんとした結果を出してきた。

 前評判通り、融通の利かないところが少し気にはなったが、チームの仕事に慣れてもらいたいという思いもあり、ちょうど切り替え時期が迫っていた商品の販促プランを任せたのだ。

 もちろん初めてのことなので、バックアップ体制を取ることは忘れなかった。

 それからというもの、イシバシくんは毎日遅くなるまで根を詰めて仕事をしていた。

 その姿を横目で見て、大丈夫だろうと思ったことと、チーム内のほかの仕事が立て込んできたこともあって、バックアップの手を止め、彼にすべてを任せることにした。

 気がつくと締め切りの日があと1週間というところに迫っていた。

 別の案件にかかりきりになっていた私も、ハッと我に返った。イシバシくんからは何の報告もなく、相談もないことに改めて気がついたのだ。

 周りに聞くと、誰かにアドバイスを求めた様子はない。彼はひたすらパソコンの前に座って、集中して作業をしている日々だった。

 さすがに心配になり、イシバシくんの作業がどんな具合か知るために急遽打ち合わせを設定した。

 イシバシくんに、「今できているものでいいから、どんな販促プランになりそうか教えてくれないか」と聞いてみた。

 すると彼は「まだ製品を使っている顧客リストが完成していないので、販促プランに取りかかれない」と苦しそうに言う。

 「では顧客リストはいつできるの」と問うと、「営業に資料の提出をお願いしたんですが、不完全なので改めて洗い直してもらっているところなんです。それがないときちんとした販促プランをつくれません」と小さな声で答えるではないか。

 驚いた私は「じゃあ販促プランは締め切りに間に合うのか」と問いただすと、今度は下を向いて黙ってしまった。

 結局、その後もイシバシくんは顧客リストの完成にかかりきりとなり、指定した期限までに、彼の販促プランが出てくることはなかった。

 私としても背に腹は代えられなかった。彼にはそのまま顧客リストをつくらせ、ほかのメンバーに無理を言ってバックアッププランを間に合わせた。

 今なら部下の成長を手助けできない、ダメ上司の典型例ということになるだろう。