プレモータム・シンキングで「執着」を手放す

 この例でA氏は、「旧来の技術」や「これまで会社や自分が投入してきた時間や投資」「システムの堅牢さ」などに執着していた。

 もし、どこかでこの執着を手放したり、弱めたりすることができていたら、もっと早い段階で方向転換できた可能性がある。

 当事者は、執着しているものが正しいと信じていることが多い。そんな時は、知らず知らずのうちに、コンコルド効果の罠に陥っている可能性がある。

 自分が何かを信じて強い思いで取り組む時や、「もう後戻りできない」と思っている時こそ、冷静になってプレモータム・シンキングをしてみるといい。

 強い執着がある場合には、行動経済学の分野でよく用いられる「フレーミング変換」という手法を併用すれば効果的だ。

 具体的には、三つのステップで進めていく。

  • (1)何に執着しているかを明確にする
  • (2)執着がもたらす未来の失敗像をイメージする
  • (3)執着を手放した時、未来の失敗像がどう変わるかを把握し、(2)と比べる

 この手順で今の執着を手放すことができる。

 (3)のステップは、フレーミング変換と呼ばれる手法だ。

 簡単に言えば「見方を変える」ことで枠組みや視点を変えて、一つのことを全く異なる角度から見るようにする方法だ。

 執着しているものを「新しい別のもの」に置き換えた時、未来の失敗像がどのように違って見えるかを把握する。違って見えた景色が、あなたにとってより心地良いと感じる時に、執着を手放したり弱めたりできる。

 それではA氏がシステム統一に着手しようとしていた時点に戻り、具体的な対処法を考えてみよう。

(1)何に執着しているかを明確にする

 まずは自分が、何に執着しているのかを明確にするために、自分の思い入れを箇条書きにしていく。A氏の例なら、

  • システムを堅牢につくりたい
  • 旧来の技術を使って安心して取り組みたい
  • 品質と納期を確実にコントロールしたい
  • これまでの技術的な資産をムダにしたくない
  • 旧来技術に投じてきた自分の時間と努力、キャリアをムダにしたくない

 ざっと思いつくのはこんなところだろうか。

 さらに箇条書きを見渡しながら、最も自分の琴線に触れるものが何かを考え抜く。

 最も手放したくないものは何か。文字通り、胸に手を当てて考えてみるのだ。

 すると、自分の気がつかないところに、執着が潜んでいることが分かってくる。

 これを繰り返していくと、自分が一体、何に強く執着しているのか次第にはっきりと整理されてくる。ビジネスパーソンは、建前と本音を自分でも混同していることが多い。得てして、本音の部分に執着が潜んでいる。