コンコルド効果を生む一番の要因は、投じたコストや努力に対する「執着」だ。

 思い入れが強すぎると、状況に応じた柔軟な対応ができない。逆に、コンコルド効果に陥っているか否かは、思い入れの奥底に潜むもの、つまり執着の正体が分かれば判断できる。

 執着を捨て去れば、コンコルド効果の罠から脱することもたやすい。見込みのない事業やプロジェクトと、きれいさっぱりとオサラバできるはずだ。

 ここでは、ある会社で情報システム部門の責任者だったA氏の失敗を例に、プレモータム・シンキングでどのように執着を手放せばいいかを見ていく。

「コンコルド効果」による失敗例

 A氏は大型コンピュータ技術に精通した腕利きのエンジニア。社内のシステム化を先頭に立って進め、部門トップにまで上り詰めた。

 昔ながらのコンピュータ技術を駆使し、経理や在庫管理システムなど、堅牢さが必要な社内の基幹システムを組み上げてきた。手堅い仕事ぶりは、歴代の経営陣からも高く評価された。

 A氏の挫折は、インターネットが急拡大した時期に起こった。

 その頃、社内の経理システムや在庫管理システムなどと自社の販売サイトの垣根が問題になり始めていた。それまでバラバラだったものを一つに統合する必要性が出ていたのだ。

 それまで信頼性を第一に基幹システムを構築してきたA氏は、システムの統合を、古いが安定した昔ながらのコンピュータ技術で実現することにした。信頼性は高いし、何より自分にとって自家薬籠中のものだったからだ。

 A氏が育ててきた現場の力があれば十分に対応できると考えていた。

 昔ながらのスキルを習得し深めるために長年注ぎ込んできた自分と部下たちの努力や会社が注ぎ込んできた教育投資などを考えると、今さら新しい技術に方向転換することなどできない、という考えもあった。

 その後、当初は目論見通りうまくいった。

 人員の増強やサーバーへの追加投資もできた。それなりの人を配置して、組織体制も整えた。一見すると、決断は成功したかに見えた。

 だが、インターネットの進化スピードはA氏の予想をはるかに超えていた。

 技術も仕組みも恐ろしい勢いで変わっていく。ある時点で自社サイトに最新技術を取り入れなくてはならなくなった。基幹システムもそれに合わせて、頻繁な変更が必要になった。現場の作業量は日に日に増えていった。何とか人海戦術で対応していたが、もはや限界を迎えるのは時間の問題だった。

 だが、いったん舵を切った以上、引くに引けない。

 「何とかせねば……」と、それからしばらくは、A氏が陣頭指揮をとり、現場に立ち、獅子奮迅の働きを見せた。それでも結局、一年ほどで刀折れ矢尽きる状態に追い込まれた。結局は、方向転換を余儀なくされたのだ。

 代償は大きかった。その間、競合他社は素早く社内システムを刷新し、機動的に運用できる体制を整えていた。

 一方で、A氏の会社はシステムの統一に手間取り、後手に回る。ビジネスチャンスを何度も逃し、事業はどんどん縮小していってしまった。その後、A氏は会社を去った。

 果たしてA氏は、どこで道を間違えたのだろうかーー。