2つの「未来の失敗」を比べてみる

 選択肢が複数ある場合には、次の2ステップで考える。

【1】それぞれの選択肢に対して未来の失敗をイメージする(プレモータムする)

【2】そのダメージを比較し、よりダメージが大きい方をやめる(比較してダメな方を消去)

 たったこれだけだ。

 【1】の未来の失敗をイメージする方法は、「現在バイアス」の罠の解決法(「『未来の壮絶な失敗』リアルに想像できますか?」「『未来の壮絶な失敗』を成功に変えるワザ」)で紹介したように、一つひとつの選択肢に対して、できる限りリアルに未来の失敗を想像する。

 3つ以上の選択肢がある場合は、最もダメージの少ない選択肢が、選ぶべきものになる。人間は、自分が被るデメリットやダメージに敏感だ。選択肢の失敗がもたらすダメージを比べることによって、それまで見えにくかった優劣がかなりハッキリと見えてくる。逆に選択肢の示す未来がどれもいい、メリットがあると感じる場合は、優劣が見えにくい。

 私の失敗のケースに戻って考えてみよう。まずは当時迷った2つの選択肢について、リアルに未来の失敗をイメージする。

 【A】製品の展開を継続した場合

 【B】製品の展開を終了した場合

 こんなふうに文章にすれば分かりやすくなる。

 【A】昨期末に例の製品展開を継続することに決めたのが失敗の始まりだった。売り上げの落ち方はここ2年ほどと変わらなかったが、今期になってライバル会社から強力な競合商品が出てくるとのニュースが流れてきた。このままでは売り上げは急落し、赤字がどんどん膨らんでしまう!

 【B】昨期末に例の製品展開を終了することにした。おかげで、身軽になった半面、課としての売上額が大きく減った。何とか、それを埋め合わせして次の柱に育つものを市場に投入しないといけない。いま開発中の新製品を早期立ち上げできないだろうか。市長調査や試作品の制作にけっこうコストがかかってしまう。どうするか。

 こうなれば自ずと、どちらのダメージがより大きいものかが見えてくる。繰り返すが、人間は自分が被るダメージに敏感に反応する。つまり2つの決断によって起こり得るダメージを想像すれば、どちらの方が自分にとって、より嫌なものなのか、ハッキリと感じられるはずだ。

 当時の私がプレモータム・シンキングを知っていたら、この商品の手じまいをする決断がもっと早くできただろう。未来の失敗のイメージをさらに分解・深掘りし、定量化することもできたに違いない。しかし、その時はプレモータムも知らず、未来の失敗のダメージ同士を比較するという考え方もなかった。そして、商品を終わらせる決断を遅くしてしまった。

 この失敗例では、2つの選択肢のダメージは、比較的差があった。だから、プレモータムを知っていればわりと容易に判断できたはずだ。

 しかし、世間には損害量も差がつかないようなケースもある。こうした場合はタイムスパンを長く取り、もっと先の未来のあなたに与える損害量を割り出せばいい。それでも差がつかなければ、部署のダメージや会社のダメージへシミュレーションを広げ、損害の総量比較をしてみるといい。

 このような定量化を進めていけば、必ずやあなたの判断を後押しする材料にはなってくる。少なくともこうしたプロセスを経れば決断は断然しやすくなる。

 迷った時には、ぜひプレモータム・シンキングと消去法の合わせ技という合い言葉を思い出してほしい。そうして、「オプション選好性」の罠から抜け出していただきたい。

消去法だけでも、そこそこ使える

 ここまでプレモータム・シンキングと消去法の合わせ技の効能を説明してきた。

 だが、実は単なる消去法だけでも結構な力を持っている、ということを紹介する。消去法をバカにしてはいけない。

 心理学や消費者行動の研究によると、消去法は良い判断をラクにできる、それなりに優れた方法であることが分かっている。人間は決断をする時、消去法をよく用いている。

 例えばテレビやパソコンを買う時、ほしい機種を何となくスペックで絞っていることがあるが、それは消去法なのだ。スペックが劣るものを無意識のうちに落として決断しやすくしている。

 そして驚くことに消去法は、判断の質もさほど悪くないことが多い。このことは、意思決定や消費者行動の研究で知られる米デューク大学教授のジョン・W・ペインとジェームズ・R・ベットマンが示した次ページの図で、その事実が明らかにされている。

横軸は意思決定の容易さを表す(右に行くほど意思決定は容易)。サイコロを転がして決めるような努力のいらない意思決定の方法は、一番右になる。一方、縦軸は決定された判断の質の高さを表す。サイコロによる決断の質は低い一方、様々な情報を検討して頑張って意思決定した判断の質は当然高くなる。消去法による判断は、その中間にある。消去法はどちらかというと消極的で楽な意思決定方法だが、だからといって判断の質がとても低いわけではなく、実はそこそこのレベルの判断を下せる。米デューク大学教授のジョン・W・ペインとジェームズ・R・ベットマンが示したものを基に作図
横軸は意思決定の容易さを表す(右に行くほど意思決定は容易)。サイコロを転がして決めるような努力のいらない意思決定の方法は、一番右になる。一方、縦軸は決定された判断の質の高さを表す。サイコロによる決断の質は低い一方、様々な情報を検討して頑張って意思決定した判断の質は当然高くなる。消去法による判断は、その中間にある。消去法はどちらかというと消極的で楽な意思決定方法だが、だからといって判断の質がとても低いわけではなく、実はそこそこのレベルの判断を下せる。米デューク大学教授のジョン・W・ペインとジェームズ・R・ベットマンが示したものを基に作図

 ペインとベットマンによれば、最も効率の良い判断をしようとすると大きな労力がいるが、サイコロで決めるような判断は努力が必要なく、消去法は比較的楽に実践できる上に、そこそこ質の高い判断ができる効果的な方法でもあるという。

 複数の選択肢で悩んだ時、消去法とプレモータム・シンキングを併用すれば、どの道を選べばよいかが見えてくる。あなたにとって最も排除すべき候補と、その理由が見つかる。決められないまま迷い続け、損失をどんどん増やしていくような最悪のシナリオは自然と避けられるようになるはずだ。

 次回は「非合理的な信念」の罠について紹介する。