一つ目の罠「現在バイアス」

 今やるべきことは分かっているのに、つい先送りにして目の前にある楽しいことや 気になることに飛びついてしまうーー。

 こうした行動を、行動経済学の用語では「現在バイアス」という。現在バイアスは、ビジネスでもプライベートでも、遅れと失敗を生じさせる最大の問題だ。

 この「現在バイアス」を避ける対処法に、プレモータム・シンキングの基本がほぼ凝縮されている。まずは、プレモータム・シンキングの基本を理解していただきたい。

 現在バイアスの例で、誰もが思いつくのは夏休みの宿題だろう。コツコツ進めておけば余裕で終わるはずなのに、遊ぶことを優先して、休みの終盤に慌てて取りかかった経験のある人は多いはずだ。

 

 人間は、将来にすべきことよりも、今、目の前にあることを優先する本能的な傾向がある。3カ月後に迫ったプロジェクトの期限より目の前の雑事を優先したり、1週間後の締め切りよりも今日の飲み会の誘惑に負けたりするのも同じだ。

 臨床精神医学の分野では、こんな仮説がある。米テンプル大学教授のジョージ・ エインズリーが2001年に示した「双曲割引」(そうきょくわりびき、Hyperbolic discounting)という心理的な傾向がそれだ。

 締め切りまでの時間と、手を付けたい欲求の強さ、つまり感じる価値の関係を見事に説明する。双曲割引という名称は、時間経過を横軸、価値の高さを縦軸にした時に、リードタイムがあるほど価値が下がる(割り引かれる)双曲線になることから名づけられた。

■人は目の前の課題を優先してしまう
上のグラフは横軸が時間の流れ(左から右に時間が流れる)、縦軸は感じる価値の高さを表す。右の黒のラインは長期的な計画。左のグレーのラインは目の前の課題だ。価値の高さの絶対値は黒の方が強いが、期限(期限1)が来るまでは低く、どうしても目の前の課題を片付けたくなってしまう。図は米国の著名な精神科医・心理学者、ジョージ・エインズリーが示した「双曲割引」の図を基に作成したもの。

 この現在バイアスに対して、プレモータム・シンキングはどのように対処していくのか。次のページで紹介しよう。