一人ひとりの生産性向上こそが本丸

 蛮勇を承知で言うと、IT技術の革命は生産性向上のための本丸ではないのではないだろうか。長期的にはともかく、少なくとも短期的にはそれではない。

 多くの人が感じていると思うが、「働き方改革」の根底には「個人の生産性向上」や「チームの生産性向上」が横たわっている。

 

 異論はあるだろうが、私などはほぼ9割がそれだと思っている。この2つの「生産性向上」を何とかしない限り、どんなに素晴らしい技術が生まれ、どんなに優れたITツールがあっても、ビジネスの現場の生産性は低いままになる。真の「働き方改革」にはならないわけだ。

 政府の「働き方改革実行計画」に書かれているような、処遇差の是正や長時間労働の減少、キャリアパスを変える取り組みなどを実施しても、個人やチームの生産性は上がらない。

 

 ビジネスパーソン一人ひとりが仕事のスピードを上げ、しかも質を落とさない方法を広く浸透させることが、現在、国を挙げて進める「働き方改革」には必要だ。

 では、そのためにはどんな妙案があるのか――。

生産性を上げる方法、それが「プレモータム」だ

 はっきり言うと、それはある。「プレモータム」(premortem)という方法論だ。

 
「プレモータム」という方法論をまとめた『先にしくじる』
「プレモータム」という方法論をまとめた『先にしくじる』

 日本のビジネスシーンではまだ耳慣れない、米国生まれの方法論。そして、私がこのコラムで、実際のノウハウを紹介していく。

 もともと「プレモータム」とは、米国の心理学者であるゲーリー・クラインが唱えた手法で、行動経済学の知見に基づいた革新的なプロジェクト・マネジメントの考え方だ。

 人間の不合理な振る舞いが惹起する様々な問題の影響を最小限に留め、日々の仕事やチームで進めるプロジェクトなどの失敗から救ってくれる手法として、米国では知られている。

 特に米国では、軍隊、病院、消防といった、絶対に失敗が許されない極限状態で働くプロたちが「プレモータム」を実践している。失敗を未然に防ぎ、自分たちのミッションを成功に導く。手戻りが少なくなるので生産性が格段に上がる。夢のようなメソッドなのだ。

 私はこれを日本のビジネスパーソンの生産性を上げるために、絶対に必要な方法論と確信している。

 「プレモータム」は、もともとは医学界の用語。検死や遺体解剖といった死亡後の分析を意味する「ポストモータム」(postmortem)の反対語で、死亡「前」の分析を意味する。これが転じて「死亡前死因分析」「事前検死」などと訳される。

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