「2008年にネットフリックスに加わった時、ストリーミングのチームは私を含め8人しかいなかった。その当時は会社がここまで来るとは全く思わなかったよ」。そうチーフ・プロダクト・オフィサー(CPO)のピーターズが述懐するように、10年前はオンラインのDVDレンタルが主力だった。だが、2010年ごろにピークを打った後、DVD市場は急速に縮小している。ネットフリックスが時代の変化に抗うことができたのは、DVDレンタルの利益が出ているうちに動画配信に舵を切り、自ら構築したDVDレンタル市場を破壊したからこそだろう。

 今回の独自コンテンツの制作も同じ文脈で位置づけることができる。動画配信プラットフォームとコンテンツ制作ではビジネスモデルが大きく異なる。だが、今後予想される荒波に先手を打つために、それまでに構築したビジネスモデルを自ら修正したのだ。

 制作会社の機能を抱え込んだことで生じた困難もある。

 レンタルビデオチェーン、ブロックバスターは収益源は90%が新作だったのに対して、DVDレンタル時代のネットフリックスは人気の低いロングテールのDVDが収益源と言われていた。アマゾンと同様に、「店舗の棚」の制約を取り除くことで顧客の心をつかむことに成功したと言える。ところが、自社コンテンツの制作にシフトしたことで、ヒットを出し続けなければならなくなった。これはロングテールではなく、ヘッドに焦点が移ったということを意味する。

 しかも、独自コンテンツの増加で投資金額が増加している。

 ライセンス投資のコストを適切に管理するために独自コンテンツを増やしていると書いたばかりだが、一気にタイトル数を増やしているため、コンテンツ支出自体は増大している。2016年に50億円だったコンテンツ予算は2017年に60億ドル、2018年に80億ドルと右肩上がりで増加している。既に、CBSやNBCなどのテレビ局を上回る規模だ。

 その投資を支えているのは、会員増に伴う会費収入もさることながら、社債を中心にした借り入れだ。

 ネットフリックスのコンテンツ配信に伴う債務を見ると、2018年3月時点の債務は179億ドルと、2015年3月時点(97億ドル)の倍近い。この4月にも19億ドル相当の優先債を発行した。ここ数年、毎年のように10億ドルレベルの社債発行を続けている。今が勝負所と考えているのだろう。