どれだけのユーザーが見たのかという視聴率に当たる指標はもちろんのこと、最後まで視聴したか、見始めていつ止めたか、その作品を何回レコメンドしたかなど、様々な角度で分析していく。見てすぐにやめたとすれば、事前のイメージと実際の作品が違うということなので、レコメンデーションや作品紹介に問題があるのかもしれない。ピーターズによれば、見ている指標は数百種類に上るという。

従来の作品づくりを破壊しているネットフリックス。それは制作フローまで及んでいる。
映像制作の現場は分業が進んでおり、ネットフリックスの社員の他に、制作会社やその下請け、プロダクション、フリーランスなど様々な人間が関わっている。しかも、制作の各段階で人間がどんどん入れ替わっていく。そのやりとりはITがこれだけ発達した今もFAXがメインだ。雨による撮影スケジュールの変更や台本の見直しなど、変更があるたびに多くの紙が飛び交う。
オリジナルコンテンツを作り始めた当初はハリウッドの“流儀”に従っていたが、自社作品が増えれば増えるほど、非効率な制作フローは膨大な無駄を生み出す。この状況を解決するため、ネットフリックスは制作フローを効率化するためのエコシステムを開発している。「シリコンバレーとハリウッドを融合させる」とスタジオテクノロジー担当のディレクタ-、クリス・ゴスは言う。
その一つがクラウドベースのスマホアプリ「Move」だ。IDとパスワードさえ設定すれば、その日の撮影内容やスケジュールなどをスマホで確認できる。雨によるスケジュール変更もリアルタイムで、新しいスケジュールも過去の仕事のデータを元に自動的に設定されていく。過去に車を爆破したシーンがあったとして、その時のデータから必要な時間が算出されるのだ。経験と勘からの脱却と言ってもいいだろう。
「初めて制作会社を訪ねた時は本当にビックリしました。1990年代の企業を訪ねたような感覚でしたね」。Moveの開発を主導したスタジオテクノロジー担当マネジャーのエイミー・トーニカーサは振り返る。事務所に入ると、数年間見かけていなかったFAXがあった。壁は張り紙で一杯で、机にはペンや書類が散らばっている。それまで彼女が勤めていたロスガトスとかけ離れた状況に思わず絶句した。

もっとも、IT化が進んでいないのには理由があった。制作会社には中小企業が多く、ITに対するリテラシーもバラバラだ。異なる企業の人間が出入りする中で共通のシステムを導入するのも難しい。その中でワークフローを効率化するには紙とペンを使うのと同じくらい簡単で直感的な仕組みにする必要がある。そこで、シンプルで誰にでも使いやすいアプリを自作したのだ。昨年11月以降、一部の制作現場で試験的に運用している。
「長期的な取り組みになると思う」とゴスが語るように、制作フローを一気にデジタル化できるとは考えていない。ただ、旧態依然とした制作現場から紙とペンをなくすことができれば、生産性やコスト効率が大きく改善することは確実だ。
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