もともとライセンス購入した作品の配信がメインだったが、2013年にリリースした「ハウス・オブ・カード」を皮切りに自社コンテンツの作成に大きく舵を切った。「完全な自由を手に入れるため」。技術全般を統括しているチーフ・プロダクト・オフィサー(CPO)のグレッグ・ピーターズが打ち明けるように、その狙いはライセンス作品に伴う制約を取り除くというところにあった。

「創造性とデータは50:50」とCPOのピーターズは語る(写真:Daren Cornell)
「創造性とデータは50:50」とCPOのピーターズは語る(写真:Daren Cornell)

 人気コンテンツのライセンスを取得する場合、米国や日本など市場ごとに購入する必要があるため世界同時に配信することが難しい。また、ライセンスが切れてしまうとその作品は見られなくなってしまう。字幕や吹き替えなどローカル化も自由にできない。その点、自社制作であれば上記の問題はすべて解消される。

 「オリジナルコンテンツという戦略はこれまでのところ大成功」とITに特化した市場調査会社、英Ovumのプリンシパル・アナリスト、トニー・グルナルソンは評価する。

 動画配信のプラットフォームからコンテンツ制作の領域に踏み込んだネットフリックス。ただ、同社の本質はデータドリブンなシリコンバレーのIT企業であり、コンテンツ制作の分野でも従来のハリウッドの常識を破壊している。

 「ハウス・オブ・カード」は秀逸なシナリオもさることながら、監督を務めたデヴィッド・フィンチャーのダークな作風と、悪党を演じさせれば右に出る者がいないケビン・スペイシーの怪演が大ヒットした要因だ。この組み合わせを決めた背景に、会員の視聴データがあったというのは広く知られている。

 会員の視聴データを分析したところ、フィンチャーとスペイシー、そして政治サスペンスの組み合わせを好むユーザーが一定数いると判明。成功を確信したネットフリックスはプロジェクトにゴーサインを出したという逸話だ(両者はブラット・ピットが主演を務めた「セブン」で共演している)。「コンテンツづくりという面で言うと、創造性とデータの割合は50:50」とCCOのピーターズは言う。

ハウス・オブ・カード

 物語の着想やシナリオづくりにAI(人工知能)やデータを用いることは基本的にない。そこはどこまで行っても人間のクリエイティビティの世界だ。実際のプロセスを見ても、クリエイターのアイデアが先にあり、それに基づいて作品の構想を練っていく。

 それではどこでデータを活用しているのかというと、作ろうとしている作品の評価であり、どのジャンルの作品を作るべきかという予測である。