農家の課題をドローンが解決

 山形県の広大な水田の上空を、カメラを搭載したドローンがうなりを上げて蛇行する。操縦者の手元のモニターに送られた画像データを基に、今度は肥料を噴霧する無人ヘリが飛び立っていく──。

 ヤンマー子会社のヤンマーヘリ&アグリ、コニカミノルタなどのコンソーシアムが2014年に始めた、可変追肥の自動化プロジェクトだ。

 可変追肥とは、水稲の草丈が伸びてきた6月頃、稲の成長具合に応じて追加する肥料を調整すること。これまで農家は酷暑の中で重い散布機を背負って実施していた。しかも、稲を倒さないよう圃場には入らない。そのため、これまでは細かく散布量を調整できなかった。航空機による自動散布ではなおさら、散布量の精度は低くなっていた。

 コンソーシアムの成果は、無人ヘリによる散布作業の省力化と、最適な肥料散布を両立させたこと。ヤンマーヘリ&アグリの尾崎英一社長は、「可変追肥の自動化は世界初の技術だ」と胸を張る。

 研究熱心な篤農家が、言語化をしないまま勘と経験で技術を培ってきた日本の農業。農家の高齢化に伴い技術伝承の必要性が高まっている上、TPP(環太平洋経済連携協定)に備えて作業の効率化が急務となっている。ビッグデータを用いた計画(Plan)、実行(Do)、検証(Check)、改善(Action)の「PDCAサイクル」が最も必要とされている分野の一つと言える。

 プロジェクトの嚆矢となったのは山形大学が開発した葉緑素センサーだ。葉緑素は、肥料の主要素の一つである窒素の吸収量と相関性が高く、稲の育成具合を推し量る指標になる。ただし、センサーで葉を1枚ずつ挟む必要があるため、圃場全体の状況を把握するのに時間がかかっていた。

 そこで、コニカミノルタの光学分析技術を盛り込んだ特殊なカメラをドローンに搭載。上空からの画像で葉の色と茎の数を分析する。ここから窒素やタンパク質の含有量をはじき出し、育成状況だけでなく食味までデータ化できるという。

 プロジェクトを開始した2014年は、この技術を用いた「計画」の時期。稲に含まれる窒素量から散布した肥料の窒素量を引けば、もともと土壌にあった窒素量が割り出せる。これまで農家が「地力」と呼んでいた曖昧な感覚が数値化されたわけだ。この数値は農家の経験知とも一致したという。

コメの収量が14%アップ

 基礎技術への確信を得て、2015年にプロジェクトは「実行」段階に進んでいる。次はヤンマーが開発した無人ヘリの出番だ。育成状況のデータに応じて自動開閉するシャッターが搭載されており、5m2ごとに施肥量を変えられる。

 重要なのは品質と価格を維持しつつ、収量を最大化する施肥量を計算することだ。施肥量を増やしすぎると、収量は増えても食味が損なわれる。収穫結果を「検証」してみると、食味によって価格が左右されにくい普及品では、収量が14%アップした。食味重視のブランド米では施肥量を抑えたため収量は落ちたが、品質と単価が向上して収入は33%増えた。比較的大規模な20万平方メートルの水田で換算すると、全体で300万~700万円の増収となる。

 今年は演算モデルの「改善」を進める。東日本大震災で津波をかぶった土地や稲が病気になった土地など、条件が通常とは異なる水田のデータも集めることで、より精緻な演算モデルを作り上げていく予定だ。

 多様なデータを入手できるIoT時代だからこそ、最も重要になるのは「何がしたいか」。目的さえクリアになっていれば、どんなデータを調達すべきかは自然と見えてくる。

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