「あの店に行けば必ずある」という評判

 九州で店舗展開するホームセンターのハンズマンは、「片方だけの軍手」という物語をシンボリック・ストーリーにしています。ハンズマンは「おっ、こんなものまで売っているのか」と、来店客を感動させる品ぞろえの多さで知られていて、その象徴的な商品が作業用軍手なのです。

 軍手は普通、右と左のワンセットで販売されます。ところがハンズマンでは右と左をバラで売っています。手袋の片方をなくしてしまったときに「片方だけ、半額で売ってくれないかな」と思ったことはありませんか。ハンズマンはそういう普通のお店では対応してくれないニーズをすくい上げています。

 ハンズマンはボールペンの中身のインクやシャープペンシルの消しゴムも単品で売っています。ネジも約3000種類。通常の右巻きだけでなく、左巻きのネジまで置いてあります。アマゾンのようなネット通販なみの「ロングテール理論」を実践しています。

 ハンズマンのホームページにはこうあります。「ハンズマンに行けば必ずある」「ハンズマンに行けば新しい発見がある」。これを有言実行し、強く印象づける店舗運営を徹底しています。

「死に筋」含む膨大なアイテム数で、商圏とリピーターを拡大

 販売効率を度外視したこうした商品が積もりに積もって、商品点数は現在18万5000アイテムに達しています。ホームセンターの業界平均は3万5000アイテムぐらいだそうですから、平均の5~6倍のアイテム数があるということになります。

 では、膨大な死に筋商品と高い人件費という「ダメだらけ」の経営で、どうやって利益を上げるのでしょうか。答えは商圏の広さとリピート率です。はるか遠くの場所からハンズマンに客が訪れ、熱心なリピート客になっていきます。ハンズマンの商圏は15~20キロメートルといわれます。これは一般的なホームセンターと比べると、かなりの広さです。

 それもこれも、「片方だけの軍手」という商品にまつわるシンボリック・ストーリーが、「あの店に行けば必ずある」という評判を生み出し、効率化の逆を行くビジネスモデルを駆動させているのです。

「ハロー効果」で独自のビジネスモデルを強化

 ハンズマンの軍手のような「象徴的商品」は、その商品の直接的な利益貢献ではなく、ビジネスモデル全体へ波及する効果を発揮します。

 これは心理学者エドワード・ソーンダイク氏が示した「ハロー効果」です。ハロー効果とは、人が物事を判断する際、何か特徴的なものがそこにあると、判断基準がその特徴的なものに引っ張られて、良くも悪くもその評価が歪められる傾向にあるというものです。

 良い方向性のハロー効果はポジティブハロー効果、悪い方向性のものはネガティブハロー効果と呼ばれます。人を見た目で判断したり、学歴や出身地、血液型などでイメージを持ったりしてしまうのも、ハロー効果と言えます。

 ハンズマンの「片方だけの軍手」は、ポジティブなハロー効果をもたらすことによって、ビジネスモデルを強化しているのです。