この物語は、近畿大学が掲げる「実学教育」を象徴しています。世耕弘一初代総長の言葉によると、実学教育とは「これまでにない独創的な研究に挑むこと。そして、その研究成果を社会に生かし、しかも収益をあげることである」とされています。実学教育という近畿大学の強みの象徴が、このマグロの物語なのです。
この成果を基にして、2003年にはベンチャー企業を設立し、完全養殖のクロマグロを出荷しています。そして「近大マグロ」の商標登録も取得し、2013年には近大の養殖魚専門料理店を銀座と大阪に開店しています。大学がマグロ料理店を開いたことは、マグロ漁獲高の低減というニュースと相乗し、その意外性・社会性から大きなニュースとなりました。
さらに近畿大学はマグロを前面に押し出した広告を展開しました。マグロがプールを泳いだり、マグロが火口から突き出ていたり、インパクトのあるビジュアルを採用し、見る人を驚かせました。そのポスターには「固定概念を、ぶっ壊す。」とうたわれていました。
いまや近大マグロはスーパー店頭でも販売されていますし、他の食品会社とのコラボレーションなども実現し、新しい収入源も生み出しています。
物語は尖っているからこそ「刺さる」
普通の感覚で「近畿大学を正しく伝える」ことを考えるならば、「総合大学」としての多様な姿を描くでしょう。そこを「強みを象徴しているマグロ」というシンボリック・ストーリーに絞り込んだことは、近畿大学の英断です。
結果としてマグロという象徴を通して、近畿大学全体の「実学教育」におけるさまざまな側面が伝えられることになりました。いち早く養殖研究に注目してきた「先見性」、マグロ研究に象徴される「世界的な研究力」や、店舗を学生が運営するような「実践的な教育方法」などが発信されました。
「近畿大学には医学部もあるのだから、マグロに絞り込むのは駄目」などと言っていたら、焦点はぼやけてしまいます。物語は尖っているからこそ、人の心に深く刺さるのです。
著者:内田和成 早稲田大学ビジネススクール教授
東京大学工学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から2004年12月までBCG日本代表を務める。2006年から現職。
著者:岩井琢磨 コミュニケーション戦略プランナー
早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。広告会社に入社後、インストア・プランナー、クリエイティブ・ディレクター、ブランドコンサルタントなどを経て現職。製造業、流通サービス業界を中心に、企業ブランド戦略および企業コミュニケーション戦略の策定・実行支援のプロジェクトを数多く手がけている。
著者:牧口松二 マーケティング・ディレクター
早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。広告会社に入社後、ブランドコンサルティング会社の創立メンバーに加わり執行役員に就任。その後現職。製造業、流通業、店舗型サービス業界を中心に、事業戦略、ブランド戦略の策定・実行支援、サービスクオリティマネジメントなどのプロジェクトを数多く手がけている。
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