これらを基準とし、物語をふるいにかけるフレームワークとして、次のようなマトリクスを提示しておきます。それぞれの象限には、分類が分かりやすいように名前をつけてあります。

「無駄話」は論外、「トリビア」「自慢話」にも要注意

 送り手の戦略に合致し、受け手が人に話したくなる物語こそが、ウィンウィンを満たす「シンボリック・ストーリー」になり得ます。それとは正反対に、戦略とも合致せず、人に話したくもならない物語は、「無駄話」です。送り手にとっても受け手にとっても何の価値もない情報です。

 「人に話したくなるけれど、戦略と合致しない物語」は「トリビア」です。話のネタにはなるような事柄でも、それが自社の戦略方針とはまったく関係ない物語のことです。

 たとえば海外からの顧客獲得を戦略方針として掲げている高級ホテルがあったとします。そのホテルの社員食堂が「とてもカラダによくて美味しい」と評判になったとしたらどうでしょうか。一見、悪い話ではなさそうです。良いサービスを提供するためには、まず従業員が健康で美味しいものを食べていなければ…などと関連づけることもできなくはありません。

 でも少なくとも、この社員食堂の話は、海外からの旅行客が、その高級ホテルを選ぶ決定的な理由にはなりそうにありません。こういったものはトリビアの領域に入ってくるでしょう。

「自慢話」の押し売りになっていないか?

 「戦略とは合致するけれど、人に話したくはならない話」は「自慢話」という名称をつけておきます。戦略的には企業としてはぜひ伝えたいと思っていることでも、その物語に独自性がなく、おもしろくもなければ、誰も聞いてはくれません。

 たとえば単に「他社よりも圧倒的に美味しい!」「うちの社員はホスピタリティにあふれたサービスを提供しています!」と言ってみたところで、それは生活者の耳を素通りするだけです。多くの人にシェアされることはないでしょう。

 もちろん、それでもしつこく言い続ければ、いつかは周囲が覚えてくれるかもしれません。しかし、この企業をあなたの周りにいる人に置き換えて考えてみてください。自分の手柄や強み(少なくとも本人がそう信じていること)を、繰り返し熱心にあなたに話して聞かせる人がいたら、「またか」と引いてしまいませんか。たとえいい人であっても、自慢話の押し売りが好印象につながることはありません。むしろ「いい加減、迷惑しているんだよね」という悪評となり、むしろマイナスになるかもしれません。

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