しかし、従業員が仏頂面だったり事務的だったりしたら、お客さんはくつろげません。お客さんにくつろいでもらうためには、従業員が楽しそうに生き生きと働いてないといけない。従業員が生き生きと働けば、お客さんに喜んでもらえるし、また来てくれるだろう。結果として会社の業績も上がるから株主が喜ぶはずだという考え方です。

 このように日本の経営者が聞いたら泣いて喜びそうな話をスターバックスは言っている。それが創業の物語などと結びついて、スターバックスは何を大事にしているのかということを非常に分かりやすく伝えている。それがアルバイトの人たちにも浸透しているから、彼らは「スタバ愛」が強いのだと思います。

企業戦略にも直結する「人に伝えたくなる話」

 会社の思想をわかりやすく伝えて、ブランド価値の向上に役立つ話を、私たちは「シンボリック・ストーリー」と名付け、『物語戦略』という本にまとめました。

 シンボリック・ストーリーというのは、それを聞いた人が、「ああ、そうなんだ」と、明日にでも人に話せるような話です。だから、いつの間にか世の中に広まって、その会社のイメージを作り上げる役割を果たします。

 そして、ただ伝えたくなるとか、「いいね!」を押したくなるだけではなくて、それによって企業のビジネスモデルや仕組みが理解できるというのが大事なところです。シンボリック・ストーリーとは、単なる面白い話とは違って、企業の戦略に直結している。優れたブランド価値を提供できる会社というのは、そういう物語があることが多いわけです。

タイタニック号の「ルイ・ヴィトン伝説」

 シンボリック・ストーリーの中には、伝説になっているものもあります。タイタニック号のルイ・ヴィトンの物語は、その典型でしょう。

 ルイ・ヴィトンはもともと貴族などのお金持ちが旅行するときのトランクを作っていて、タイタニック号のお客さんの中にもルイ・ヴィトンのトランクに衣装を詰めて乗り込んできた人がたくさんいた。そしてタイタニックが沈没しても、ルイ・ヴィトンのトランクは沈まず海に浮かび、それにつかまって助かった人がいたそうです。

 さらには、後年、海の底のタイタニックから回収されたルイ・ヴィトンのトランクを開けてみたら、中身は濡れることもなくもとのままの状態だったというのです。こうした話の真偽はわかりませんが、これはルイ・ヴィトンのトランクがいかに丈夫で長持ちするかということを伝えるストーリーとして語り継がれているわけです。

物語が買い手に「納得感」を提供

 私は20年ぐらい前に、なぜ若い女性があんなにルイ・ヴィトンのバッグを買うのかということを調べるためのヒアリングをしたことがあります。ヒアリング対象は、学生、20~30代のOLさんなどでした。

 彼女たちから見ると、5万円から10万円もするバッグは高い。1万円か2万円も出せば、そこそこのバッグが買えるのに、どうしてルイ・ヴィトンの高いバッグを買うのかを聞いてみました。そうしたら彼女たちの答えは、ルイ・ヴィトンのバッグは丈夫で、10年でも20年でも持つので、実はコストパフォーマンスがいいと言うわけです。