この連載では企業戦略の文脈でこれまであまり語られてこなかった、人を引きつける「物語」の効果を紹介します。物語は競争戦略やビジネスモデルと結びついて、顧客や従業員を強く引きつける力となります。さらに、物語は共感の源として、いつしか顧客や消費者の心に刻まれていきます。ビジネスパーソンは物語をどのように活用すればいいのか。私たちは『物語戦略』という本にヒントをまとめました。この連載では、そのエッセンスを紹介します。

なぜスタバのバイトは職場を強く愛しているのか?

 日本のカフェチェーンで顧客満足度が一番高いのはどこだと思いますか? 顧客満足度調査で上位の常連はどこのカフェチェーンでしょうか?

 こういう質問をすると、スターバックスだろうと思う人が多いようです。しかし、サービス産業生産性協議会(JCSI)が毎年実施しているカフェチェーンの顧客満足度調査は、意外な結果を示しています。過去6年間の調査結果を見ると、スターバックスは2014年にトップになっていて、毎回上位に入っています。そして他のチェーン2社も1回ずつトップになっています。でも、トップの回数が一番多いのはカフェ・ベローチェでした。6年間で3回もトップになっています。

 どうしてカフェ・ベローチェなのかということについては、ここでは関係ないので触れません。この調査結果をここで取り上げた理由は、私(内田)が大学でこの調査結果について話をすると、「この調査はおかしい」と猛反発する学生がいるからです。それは誰かというと、スターバックスでアルバイトしている学生です。彼らは「スタバ愛」がとても強い。別のカフェチェーンでアルバイトしている学生は、そんなことは言いません。

 では、なぜスターバックスのアルバイトは、自分の職場をそんなに強く愛しているのか? それがこのコラムのテーマと関わります。理由はいろいろ考えられますが、スターバックスの持つ「物語の力」が大きな意味を持っているのではないかと思います。

スターバックスで働くアルバイトは、自分の職場への忠誠心がとても高い。「物語」の力がここにも働いている
スターバックスで働くアルバイトは、自分の職場への忠誠心がとても高い。「物語」の力がここにも働いている

企業の物語を従業員に浸透させる

 スターバックスはアメリカの上場企業でありながら、ステークホルダーの優先順位は、アメリカ的ではありません。アメリカの上場企業は、普通、優先順位の1番は株主です。ところがスターバックスは、1番が従業員、2番が顧客、3番が株主です。アメリカ企業としては非常に珍しい優先順位です。

 スターバックスがどうしてそういう考え方をしているかというと、それは彼らのビジネスモデルとリンクしています。スターバックスは、自分たちの店を「サードプレイス」(第3の場所)と位置付けています。家庭が第1、職場や学校が第2、そしてスターバックスは第3の場所として、家庭や職場とは違うくつろぎを提供するのが自分たちのビジネスだというわけです。

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