中途半端な多角化では利益が上がらない

 注目したいのが、手がける事業の多様性だ。今回の調査で目立ったのが、タレントのマネジメントという芸能事務所の業務にとどまらず、多角的に事業を進める会社が多いこと。小規模な会社が大半を占めるにもかかわらず、過半数を超える会社が芸能事務所以外の事業を手がけている。

 ただし多角化の中身に目をこらすと、イベントの企画・運営、著作権管理、出版、音楽、コマーシャル制作など、本業との関係が見えやすい分野が多い。まったくの異業種を手がける会社は限られ、新市場の開拓を図る場合も多くはあくまでタレントを中心に新たな事業を開発している。

展開する事業の数(横軸、数)と社数(縦軸、社)=左グラフ
展開する事業の数(横軸、数)と利益率の平均(縦軸、%) =右グラフ
展開する事業の数(横軸、数)と社数(縦軸、社)=左グラフ<br />展開する事業の数(横軸、数)と利益率の平均(縦軸、%) =右グラフ

 多角化の進行度合いと利益率には一定の相関関係がある。多角化により事業の数が2、3業種に増えた場合、芸能事務所の専業だったときと比べて利益率が低い。しかし、多角化によって事業の数が4つ以上に増えると再び利益率が高くなる。多角化は有力タレントがいる場合、特に目立つもようで、これは有力タレントを抱えることで芸能事務所の対外的な交渉力が上がるためだと考えられる。収益力をつけるには中途半端な多角化のままでは厳しく、芸能事務所としての業務に特化するか本格的に多角化するかのどちらかが必要だ。

典型的な一極集中型産業だが…

 都道府県別にみた場合、芸能事務所の所在地は東京、神奈川で4分の3を占める。テレビ局や出版社、広告会社などが首都圏に集中しているのと合致しており、典型的な一極集中型の産業といえる。それ以外でも大都市圏の大阪、愛知が上位となっている。

 例外が沖縄。3大都市圏以外ながらもベスト5に入っており、ユニークさが目立つ。人口当たりでみた場合の社数も高く、芸能事務所が「地場産業」の一角を担っているといえる。

 意外だったのは、取引先である金融機関にメガバンクが目立つこと。通常、10人以下の規模の会社の取引先は信用金庫や地方銀行が多く、異例ともいえる。山本准教授は「詳しい理由はわからないが、所在地が東京に集中していることは関係しているだろう」とみている。取引の内容が借り入れなどでなく、決済などにとどまる可能性もある。

経営者の年齢(横軸、歳)と社数(縦軸、社)
経営者の年齢(横軸、歳)と社数(縦軸、社)

 経営者の年齢は偏りが小さく、各年代に散らばっている点に特徴がある。「タレントを抱えることで比較的若い経営者も活躍できる余地があるからではないか」(山本准教授)

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