芸能事務所の経営をビッグデータから考察してみた

 150万社のビッグデータを活用し、新しい切り口や問題意識からこれまで知られなかった日本経済の姿を明らかにする――。東京商工リサーチ(東京・千代田)と東京経済大学の山本聡准教授による共同研究の最新成果をリポートする(記事中のデータやグラフなどは東京商工リサーチの企業情報データベースに基づく)。

 今回のテーマは芸能事務所。テレビなどで人気の歌手やタレントを多数抱える会社もあれば無名のタレントが数人だけの芸能事務所もあり、業界の裾野は思いのほか広い。ただし、これまで業界の構造や経営者の属性などを実際の経営データから本格的に分析したケースはほとんどなかった。

 分析対象となる母集団のデータを準備する段階でわかったのは、企業規模と経営情報の公開状況が必ずしも一致しないことだ。

 上場企業であるアミューズやエイベックスでは、もちろん経営にまつわる様々な数字を公開している。しかし非上場の場合、知名度が高い芸能事務所であっても、経営についての情報を原則として公表しない会社がある。また、数年前まで上場していた芸能事務所が非上場に転じた後、データを公開しなくなったケースもある。このため一定の制約があるものの、今回はメーンの事業として芸能事務所を掲げる約650社のデータに基づいて調査・分析を行った。区分けはいずれも東京商工リサーチの企業調査データに従った。

10人未満の会社が9割

 まず企業規模からみると、芸能事務所の社員数(原則としてタレントは除く)は平均9人台であることがわかった。社員数10人未満の会社が9割を占める一方、今回の調査では社員100人を超える企業が1%ほどにとどまった。大手といえる企業であっても規模は限定的であり、小規模な事業者が競い合う。特別な参入障壁がないほか、タレントはスポット的な契約のため固定費が小さく事業を立ち上げやすい面があるからだが、それだけではない。

社員数(横軸、人)と社数(縦軸、社)

 芸能事務所は事業の核となる「財」が所属するタレントであり、事業拡大できるかどうかは属人的な面が強い。人気のあるタレントは、いわば“究極の一品モノ”。代えのきかない存在であり、他の産業のように“大量生産”ができない。しかも、事業を伸ばすためにはその分、所属するタレントの差異化も必要になってくる。「人気がどこまで続くのか」といった難しさもある。山本准教授は「それだけに、この業界は規模の経済性がほぼ働かない」とみている。タレントが個人で事務所を持つケースもある。

 逆に言えば、人気タレントを何人も抱える大手の芸能事務所はこうした課題をクリアする必要がある。華やかな世界だが、それぞれの手法で新たなタレントの発掘を進め、育成の仕組みを磨く地道な工夫が欠かせない。大手の芸能事務所が小規模な芸能事務所を傘下に置くケースもある。