創業者精神の発露を阻む「大企業病」

 プロントコーポレーションはサントリーのグループ会社で、社内には「やってみなはれ」精神が根付いている。だが、そんな中でも、作りたい業態のイメージを理解してもらうには時間がかかったという。「自分は中途採用で会社に入って10年ほどだが、周りには社歴が長く、プロントへの愛着心が強い人も多い。全く新しい業態を理解してもらうための説明は手間を惜しまなかった」と坪井副部長は話す。

 坪井副部長が心掛けたのは、会社が培ってきたものを生かしつつも、新業態の根幹となる部分については妥協せず、繰り返し周囲に理解を求めた上で実行するという点だ。例えば、ディプントで取り扱っている生タコは、プロントと共通のものを使用した。一方で、ドリンクメニューにはこだわり、プロントで提供しているようなモスコミュールなどのカクテルは導入しなかった。それは、テーブル上の見た目にこだわったからだ。「女性同士でワイン酒場に来たというシーンや記憶を共有してもらうことを目指した」(坪井副部長)。

 外食業界は参入障壁が低く、新業態も模倣されやすい。産みの苦しみに比べて、その“寿命”は思ったよりも早く来るかもしれない。だが、その新陳代謝の繰り返しが業界の歴史そのものであり、その市場で勝ち残って初めて、一過性のブームではなく不可欠な飲食店として消費者に受け入れてもらえる。

 大手外食チェーンの場合、主力業態への依存度が高く、新業態を作っても、どうしても「片手間」の仕事になってしまいがち。また、スケールメリットを追求する結果、特徴を欠いた「万人向け」で面白みのない店が生まれるケースも少なくない。こうした「大企業病」から脱却し、魅力的な新業態を開発できるか。 成否は、会社全体で熱を帯びた創業者精神を取り戻せるか否か、さらに言えば、創業者精神の発露と継続を支える組織づくりにかかっている。

*当連載は、日経ビジネス2016年5月16日号特集「外食崩壊 ~賞味期限切れのチェーン店~」との連動企画です。あわせてこちらもご覧ください。