というのも、なぜ同族企業の業績がよいのかというと、まだまだわからない面があるからだ。

 同族企業が強い理由を明らかにするためには、これまで様々な角度からのアプローチが行われてきた。例えば、京都産業大学の沈政郁准教授は上場企業を対象にした研究によって、日本の同族企業の強さの一端が婿養子制度にあることを明らかにし、世界的に注目を集めた。

 婿養子による事業の引き継ぎは日本特有で、欧米にないだけでなく、中国や韓国にもない。後継者がいない場合や、後継者がいても経営者にふさわしい能力を持たない場合(いわゆる「バカ息子問題」)などに、婿養子によって外から能力のある人物を入れる。日本は創業100年を超える企業数が世界一多いが、その理由の1つとしても注目される。

 それでも同族企業全体にとって婿養子が占める比率は高くない。それだけで好業績の理由を説明するのは難しい以上、やはり特有の行動原理や特長を探る必要がある。

 この点では長寿企業の研究や経営者らからの証言などから、ファミリーによるビジネスは長期的な視点を持ちやすいことが知られている。しかし、それが特定の企業だけでなく同族企業全般に当てはまるのか。長期的な視点とはどんなメカニズムに基づくのか、などわからない面がある。長期的な視点についてデータに基づく明確なエビデンスがなかった。

危機に直面したとき、戦略はここまで違う

 神戸大学の忽那憲治教授と沈准教授はこのほどこの課題に対して共同研究を実施。通常では測定が難しい長期的な視点の有無を調べるため、外部からの大きなショックが起きたときの企業戦略に注目。同族企業と非同族企業に分けて分析を行った。

 ただし、ショックの要因が国内にある場合には、会社ごとの事情の違いが影響しやすく、比較が難しい。そこで1998年に深刻化したアジア金融危機と2008年のリーマン・ショックを対象に設定。ともに海外に原因があり、国内の大半の企業に影響を与えたため、同族企業と非同族企業の行動の違いを比較しやすい。上場企業約3600社のうち、(1)2つのショックの前後数年分のデータが確認できる(2)家族経営の場合、事業承継の影響を取り除いて分析するため、その期間に経営者が変わっていないことを条件に同族企業と非同族企業をそれぞれ約500社選び、人、モノ、カネの3つの角度から調べた。

 アジア金融危機を例に考えると、まず人について、同族企業と非同族企業は戦略に大きな違いがあることがわかった。

 労働コストの推移をみると、同族企業は危機を経た直後でも積極的な姿勢が目立つ(図1)。

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 特に創業者が経営する場合には労働コストを増やす傾向が強いが、創業者以外の同族企業も労働コストが増加している。これはヒューマンキャピタルを重視し、危機にあたっても人材面に手をつけないためだと考えられる。一方、非同族企業はこれとは対照的に危機を前に労働コストを減らす傾向にある。つまり、非同族企業は雇用面から危機の突破を図る。

 これに対してモノについてはどうか。

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