日本酒のコピーも可能

 試飲したのは、合成した白ワイン。コピーの対象としたのは、デザートワインの一種でマスカットから作られるモスカートと呼ばれるワインだ。

 グラスを傾け回してみると、液体がグラスをつたって落ちるのが早く、本物のワインと比べて少し粘性が弱いような印象を受けた。色も普通の白ワインよりも薄い。少し発砲している。鼻をグラスに近づけると、甘いマスカットのような香りがする。そして口に含んでみると、確かにワインのようだ。

 ちなみに、記者はワイン素人である。当然、ソムリエ資格も持っていない。そのため、ワインをどのように表現して良いのか分からないが、近所のスーパーで買ってきて普段、家で飲むようなワインとしては、価格次第で「合成ワイン」は十分に消費者に受け入れられる可能性があると感じた。

 このワインは競技会にも出品中だという。税制上、ワインに分類されるかどうかなど課題はあるが、リー氏は年内にも初出荷したいと意気込んでいる。

 ちなみに、ワインの試飲の後、試作段階だという「合成日本酒」のコピーも出してくれた。これには正直、驚いた。ワインとは違った日本酒の特徴を再現していたからだ。つまり、成分の分析によって、極端に言えば何でもコピーできてしまうというわけだ。

 有名ワインの成分をコピーすることについて、法的に問題ないのかと聞くと、「ワインに含まれる化合物は自然によって作られるもので、ワイナリーが化合物の知的所有権を持つわけではありません。ブランドやマーケティングをコピーしなければ問題ないでしょう」とリー氏は話す。また、既存のワイン業界からは、「ワインは複雑な組成でできており、完全にコピーできるわけではない」といった主張も出ているようだ。

 こうした合成ワインを取り巻く周囲の反応を聞いていると、かつて音楽が、レコードがCDに、CDがMP3に進化した際に繰り返し聞かれた議論を思い出した。レコードがCDに進化したときには、「デジタルでは再現できないアナログの良さが失われる」、CDからMP3に進化したときには「音質がさらに劣化する」といった反発が、音楽業界や音楽ファンから巻き起こった。だが、結局は利便性向上とコスト低下をもたらすデジタル化を消費者は支持し、そうした反発は吹き飛んでしまった。

 合成ワインや、これまで見てきた植物性タンパク質による肉や卵、魚の代替製品についても、同様の議論が今後、起きてくるかもしれない。保守的な食の分野では、新たな技術に対する不安は大きい。もちろん、安全を確保することは絶対に必要だ。そうした課題を克服できれば、デジタル化が起こした変革と同じような地殻変動が、食の分野でも起きる可能性はあるだろう。