ワインを“コピー”する「合成ワイン」

 既存の食品の分子構造を解析し、全く別の手法で再現してしまおうという動きはほかにもある。ワインだ。おいしいブドウを毎年育て、時間をかけて醸造するのではなく、ワインの「味」を実現している成分を化学的に合成しようというのだ。ブドウも使わず、醸造もしないために、量産が可能になれば低コストで、高級ワインと同じ味を実現できることになる。

 そんなビジョンを掲げて研究を続けるのが、アヴァ・ワイナリーである。サンフランシスコの倉庫街にオフィスを構え、天井からはドクロの旗が掛かっている。何やら物騒な印象だが、どうやら「ワインパイレーツ(ワインの海賊)」という意味のようだ。業界に革命を起こそうという意気込みが伝わってくる。

 オフィスを訪れると、テーブルに並んだ数十杯のワイングラスに入った赤い液体を、男性がテイスティングしていた。この液体が、ワインの分子構造を解析し、醸造ではなく化学的に再構成した「合成ワイン」である。それぞれワインの「レシピ」が異なり、ソムリエ資格を持つ社員が味をチェックしていた。

合成ワインを開発するアヴァ・ワイナリーのアレック・リー共同創業者(右)ら

 アヴァ・ワイナリーの創業は2015年。ワインが含有する数百種類の化合物を、製薬業界などで使われている解析装置で分析し、どの物質がワインの味に影響しているかを特定して、その成分をエタノールに合成する。つまり、既存のワインの成分を、化学的に「コピー」するのである。ワインが含む化合物のすべてを完全に再現するのではなく、あくまでも人間が感知できるものだけだ。共同創業者のアレック・リー氏は「それで十分」と話す。

 合成にかかる時間は約1時間。長期間、醸造する必要がないために生産効率は高く、製造方法はコーラのような飲料に使用されているものでいいという。毎年、ブドウの出来具合に味が左右されることもなく、在庫が切れることもない。既存のワイン業界からは反発もあるが、一部のワイナリーからは熟成の管理などに技術を応用できないかといった関心も寄せられているという。