食のトレンドは「原点回帰」と「再構成」

 なぜ、今こうした植物肉のハンバーガーが注目を集めているのか。改めて、ビヨンド・ミートのゴールドマン会長が解説する。

ビヨンド・ミートのセス・ゴールドマン氏(写真:鈴木香織)
ビヨンド・ミートのセス・ゴールドマン氏(写真:鈴木香織)

 「今、食の分野で起きているイノベーションの方向性は、大きく分けて2つあります。1つは、食の『原点回帰』です。原料をよりシンプルにし、透明性を高めるというもの。自然食品やオーガニック(有機)食品のブームはこの流れにあるものです。そしてもう1つが、ビヨンド・ミートのような会社が取り組む食の『再構成』です。既存の食品カテゴリーや製品を、これまでとは全く違う科学的な手法で改良するという考え方です」

 「原点回帰と再構成に共通する背景には、急速に高まる消費者の健康意識があります。米国では、健康意識の高まりから、赤肉(牛や豚など哺乳類の肉)や人工の添加物を控える動きが広がっています。また、畜産が地球温暖化の一因になっていることや動物愛護の観点からも、肉食を避ける人も増えています」

 「これまでも、肉を食べないベジタリアンは米国民の約5%を占めるとされていました。既に、こうした市場があることが、ビヨンド・ミートのような肉の代替製品の市場が急速に立ち上がる原動力になっています。しかし、私たちはベジタリアン向けにビジネスをしているわけではありません。もっと、大きな市場を狙っています。普通の消費者が、週に一度でも『植物肉』を食べるようになれば、潜在的な市場規模は今後10年で約2倍に拡大するでしょう」

 肉の再構成による代替製品の開発では、植物由来のタンパク質を活用するものだけではなく、牛などの幹細胞を培養することで肉を作り出す挑戦も活発化している。「あと3年もすれば、レストランで普通に培養肉を食べられる時代がくるだろう」。オランダのマーストリヒト大学で「培養肉」を研究するマーク・ポスト教授は言う。

 培養肉とは、再生医療などにも活用される、細胞の自己組成の特性を応用して作った肉のこと。ポスト教授は牛の幹細胞を取り出して培養し、人工的な牛肉を作ることに成功した。理論的には、牛の幹細胞数個から1万トン以上の牛肉が生成できるという。

 技術的にはほぼ実用化のメドがついている。ポスト教授は2013年に英ロンドンの記者発表会で成果を披露。その後、脂肪分などを工夫し本物らしい味に近づけた。昨年、事業化に向けた新会社モサミートを設立。大手食肉メーカーなどが出資を検討している。課題は量産化だが、ポスト教授は楽観的で「培養肉のハンバーガー1食当たり10ドルも実現可能」と話す。今年3月にはサンフランシスコのスタートアップ、メンフィスミートが世界で初めて、鶏肉の培養に成功したと発表した。2021年の商品化を目指しているという。

 残念ながら、今回の取材では培養肉を試食する機会は得られなかった。だが、少なくとも植物肉については、記者が実際に食べてみた実感としては、近い将来、1つのカテゴリーを作りそうだ。まだ米国の大都市を中心とした動きだが、ゴールドマン氏は「海外でも長期的にはビジネスチャンスはある。いつか日本にも進出したい」とさらなる拡大に期待する。グルメバーガーの次のトレンドとして、植物肉バーガーが日本に上陸する日も、そう遠くないかもしれない?

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