失業率が10%を超える南部や南西部では、食料やガソリンを買うためにドラッグを手に入れ、他人に売って差益を儲けるケースが目立つ。医薬品卸や医師への締め付けが厳しくなったこともあり、安易な処方は減りつつあるが、中毒になった人が依存から抜け出すのは容易ではない。鎮痛剤に替わって、ヘロインや覚醒剤などの違法ドラッグが急増しているのが現状だ。

 州全体で見れば、建設需要の増大もあり失業率は低下している。また石炭業界も製鉄用石炭の価格が上昇しているため、最悪期は脱しつつある。だが、地域をむしばむドラッグ汚染はそう簡単には解消しない。

悲しみからの逃亡

 ウェストバージニア州には、ドラッグ中毒に陥った人々向けの更生施設が複数ある。チャールストンにある女性専用のリカバリー・ポイントも、そんな更生施設の一つだ。入所者は61人。オピオイド系鎮痛剤やヘロイン、覚醒剤など様々なドラッグの中毒患者が毎日のように訪れる。

 リンジー・スミスは2016年11月にここに入所した。15歳からオピオイド系鎮痛剤を使い始め、ヘロイン、覚醒剤へとエスカレートしていった。2014年には違法ドラッグの所持と販売で逮捕されている。ドラッグの過剰摂取で死んだ友人は20人を超える。

 「ここから15分ほどの小さな町で育ちました。この辺りはアルコールやドラッグ(の過剰摂取)がポピュラーで…。カレッジに行き、パーティー好きの友人と過ごすことが増えてエスカレートしていきました」

 彼女の家庭環境は複雑だった。3人の兄と2人の妹がいるが、上の2人は母親の再婚相手の連れ子。子供の頃は一緒に住んでいたが、その後、血縁関係のある姉妹や友人と暮らすようになり、高校卒業とともに家を出た。上の兄もドラッグ中毒だった。

 彼女の育った環境は確かに複雑だが、真の問題は、この辺りでは誰もが同じようなストーリーを生きていることだ。

 この施設のメンターを務めるアンナ・ハートマンもかつてドラッグ中毒だった。高校時代、交換留学で日本の高校に滞在していたこともあったが、カレッジに入った18歳の時にマリファナとアルコールを手放せなくなった。その後、医師にオピオイド系鎮痛剤を処方してもらうようになり、その1年後にはヘロインとコカインにハマっていった。そしてホームレスになり、逮捕されて更生施設に収容された。

 「ホームレスだった時は、ドラッグを手に入れるためなら何だってしました。ああいう惨めな生活から抜け出したいと思っていたけど、どうやめればいいのか分からなくて、少しやめては戻っての繰り返し。逮捕されて、正直、解放されたと思った」

 リハビリは12のプログラムで構成されている。洗濯や料理など生活に必要なスキルを他の入所者と協力しながら身につける。そうやって、一人ではできなかったことを習得し、自分の感情と向き合う術を模索していく。同じ状況にある仲間と過ごし、助け合うことで回復効果が上がるとアンナは言う。

 「ヘロインを打つと何も感じなくなる。怒りも悲しみもあらゆる感情がなくなる。だからみんなヘロインを打つ。怒りや悲しみから逃れるために」(アンナ)。この更正施設にきた女性たちは、中毒に陥る恐怖を知っている。

 「やめるのは本当に難しい。保護観察中、見つかれば刑務所行きになることが分かっていてもやめられない。家族を失っても、人が死んでも関係ない。とにかく、やめることができない」(リンジー)

 「ドラッグが切れると、打つ前よりもひどい状態になる。そのサイクルがどんどん短くなっていく。最後は、最悪な状況を逃れるためだけに打っていた」(アンナ)

 リンジーは今、自分の感情にどう向き合うか、少しずつ学んでいる。

 「通常は5~7日でドラッグが抜けるようですが、私は2週間かかった。その間は生きているのが嫌だった。当初は13日間、眠れなかったけど、やっとデトックス(排泄)できました。今は、感情に対処する方法を学んでいます」

 リカバリー・ポイントのプログラムは9カ月から12カ月と長期にわたる。リンジーは5カ月を経過したところで、あと半年もすれば出所することになる。「その後はどうするのか」と尋ねると、「母親になる」と答えた。すでに妊娠しているという。

 「(もうドラッグに手を出さないか)誰も保証できません。絶対にやらないと断言できないんです。それは誰にも分からない。以前よりはいい感触を持っています。やらなければならないことも分かっている。でも、絶対に手を出さないとは保証できない。そうならないように望むだけです」

トランプと希望

 2016年の大統領選挙で、トランプはウェストバージニア州で圧倒的な票を獲得した。石炭産業が主要産業の南部ではとりわけ支持が高く、得票率は80%を超えた。

ウェストバージニアで圧倒的な支持を得たドナルド・トランプ(写真:Mark Lyons/Getty Images)
ウェストバージニアで圧倒的な支持を得たドナルド・トランプ(写真:Mark Lyons/Getty Images)

 “Make America Great Again(米国を再び偉大な国に)”。その政策の一つとして、トランプは石炭産業の再生やEPA(環境保護局)の解体を公約に掲げた。オバマ政権による過度の規制が石炭産業に打撃を与えたという主張である。

 実際、就任後には地球温暖化対策としてオバマ政権が導入した規制を見直す大統領令に署名、地球温暖化に懐疑的なスコット・プルイットを長官に指名した。あくまでもホワイトハウスの予算案に過ぎないが、予算教書でもEPAの予算を30%カットする予算案を提示している。

 「片方の候補者は炭坑をつぶすと語り、もう一方の候補者は炭坑を増やすと語った。それはみんな支持するさ。だって、初めて炭坑を増やすという候補者が現れたんだから」

 ベックリーのベスコーニはそう語る。それが、炭坑労働者の総意だと言わんばかりに。

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