カーミットから車で30分ほど走った所にある、州南西部のウィリアムソンも状況はさして変わらない。この町の薬局もオピオイド系鎮痛剤の過剰販売で訴えられている。見たところ小さな薬局だが、ケーグルによれば1日150錠のオピオイド系鎮痛剤を処方していた。

 「1990年代後半までオピオイド系鎮痛剤の話はあまり聞かなかった。問題になり始めたのは、2004年か2005年に州政府が(オピオイド系鎮痛剤の乱用に関する)捜査を開始した時だったと思う」

 2005年から2014年までウィリアムソンの市長を務めたダリン・マコーミックはそう振り返る。ウィリアムソンが猛吹雪に見舞われた時のこと、警備担当者を急募したが、応募した18人のうち14人が薬物検査で引っかかった。

 「薬局にしてみれば、『医師の処方箋に従って処方しているだけだ』と言うだろう。私も、安易に処方箋を書く医師が問題だと思う」

ウェストバージニア産の石炭は火力発電用の燃料としても用いられる(写真:Andrew Lichtenstein/Getty Images)
ウェストバージニア産の石炭は火力発電用の燃料としても用いられる(写真:Andrew Lichtenstein/Getty Images)

 確かに、石炭の採掘は危険を伴い、事故があれば応急処置の1つとして鎮痛剤が処方されることも仕方ない面がある。だが、効き目が強いだけに、安易に処方を続けると、次第に風邪などの軽い症状でも鎮痛剤を求めるようになってしまう。そして、地域に中毒患者が広がっていく。結果的に鎮痛剤の需要が増えるため、医師や薬剤師、医薬品卸がその利益に群がってくる。そんな負のスパイラルが、状況をここまで悪化させた構図だ。

 「明らかに医師や薬剤師はオピオイド系鎮痛剤のリスクを知っていた。エピデミックを加速させたのは究極的には強欲とカネだ」(弁護士のケーグル)

工場閉鎖が追い打ち

 南部の炭坑エリアで始まったドラッグの蔓延──。製造業と炭坑業の低迷がそれに拍車をかけた。

 コテージビルでは、地域最大の雇用先の一つだったアルミニウム工場の閉鎖が痛手だった。この工場は最盛期に最大4000人の従業員を抱えていたが、1980年代以降の国際競争や業界再編によって徐々に規模を縮小していった。2009年以降はほぼ閉鎖状態だ。

 「工場閉鎖はコミュニティに大きな影響を与えた。その影響でドラッグに走った人も知っている」

 近隣のプラスチック会社Star Plasticで事業開発マネジャーを務めるルーク・シンドラーはそう語る。

 冒頭の姉妹の里親となっているキャリー・ソトメイヤーもアルミ工場の閉鎖を理由に挙げる。

 「オピオイド系鎮痛剤の乱用は失業も理由だと思います。このコミュニティは長い間、アルミ工場に依存してきました。私の祖父も40年近く働いていました。高校性の時に、『何でこんな勉強が必要なんだ。どうせあそこ(の工場)で働くのに』と言った友人がいました。それだけ大きな存在だった」

 アルミ工場が閉鎖された時には一時金が出たが、そのカネで新しいスキルを身につけようと考えた労働者は聞いたことがないとソトメイヤーは言う。

 「その日暮らしなんですよ。あるいは、歳を取り過ぎていると感じたのかもしれません。自分はだいぶ歳を取っていて家族もいる、と。何をしたらいいのか分からないのに、カレッジに行くなんて現実的に思えないんです」

 非効率な産業から新たな産業に労働力を移転させることが必要だと専門家は語る。だが、歳を取れば取るほど、そのハードルは上がる。

 アルミ工場を所有するセンチュリー・アルミニウムに閉鎖の理由を尋ねたところ、「閉鎖したのは高い電力価格のため。その問題が解消されれば再開したいと思っている」と回答した。

 石炭産業が主体の南部や南西部も、産業衰退によって雇用が壊滅的な打撃を受けた。製造工程の自動化や熾烈な国際競争で雇用を減らした製造業とは異なり、石炭産業に打撃を与えているのは米国産の安価な天然ガスである。

 米国の東北部やテキサス州などに広がっているシェール層。2000年代後半以降、このシェール層からガスやオイルを採取するフラッキング(水圧破砕法)の技術が飛躍的に進歩したため、米国で天然ガスの価格が大きく下がり始めた。いわゆるシェール革命である。

 ウェストバージニア産の石炭は国内の火力発電所用の燃料として重宝されてきたが、より環境に負荷の少ない天然ガスの価格が下がれば勝ち目はない。こうして、石炭火力から天然ガスにエネルギーが置き換わる動きが加速した。

 オバマ政権下の環境規制も石炭産業の崩壊に拍車をかけた。オバマ政権は2012年にMercury and Air Toxics Standards(MATS:水銀、他大気有害物質基準)という排出基準を設けた。火力発電所が排出する水銀や二酸化硫黄などの大気汚染物質を規制するもので、浄化装置などの追加投資を嫌った電力会社は次々と石炭火力発電所を閉鎖した。

 それでも、2012年頃までは資源価格高騰に伴う石炭価格の上昇もあり、生産量の減少をカバーすることができた。だがそれも、中国経済の減速と資源価格の崩壊で終焉を迎える。頼みの国内需要はガス火力発電への転換と規制強化で既に減少している。坂道を転げ落ちるように、ウェストバージニア州の石炭産業は悪化していった。

 今では皮肉にも、ドラッグがエコノミー(経済活動)の一部になっている。

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