コテージビル小学校には「メンター・プログラム」という取り組みもある。近隣で働く大人が昼休みに問題を抱える子供と一緒に過ごすというプログラムだ。親が刑務所にいたり、薬物中毒だったりする子供は大人と適切な関係を築くことが難しい。そこで2年間、そんな子供たちと校庭で遊んだり、昼食を取ったりしてコミュニケーションを深める。

 取材当日も、祖父に育てられている男の子のところに、近隣のプラスチック工場で働くデビッド・ウィリスが来ていた。バスケットボールで汗を流した後、パソコンルームで一緒にゲームをして過ごした。

毎日、昼休みになると近隣で働く大人がサポートに来る(写真:Retsu Motoyoshi)
毎日、昼休みになると近隣で働く大人がサポートに来る(写真:Retsu Motoyoshi)

 「私が子供の頃は、いい大人や教師が周囲にいて人格形成の機会を子供たちに与えていた。コミュニティがみんなで子供たちをサポートしていたんです。だから、私も子供たちの人格形成の手伝いをしたいと思って参加しています。大変なこと? 何もありませんよ」

 そう語ると、メンターのウィリスは男の子の待つランチルームに向かった。カウンセラーとしてメンター・プログラムを導入したロビン・コービンによれば、メンターは13人いるが、全員がボランティアで参加している。

 「コテージビルの子供たちは、身近な人の中にドラッグを使用している人がいることを知っています。中には、親が注射針を打つ瞬間を見てしまった子もいる。そんな子供たちの心の状況を改善する上で、メンターは極めて重要な役割を果たしているんです。子供たちは毎日、メンターが来るのを楽しみに待っています」

炭坑とドラッグ

 ドラッグ・エピデミックはウェストバージニア州全体で起きているが、石炭産業が雇用の大半を占めている南部や南西部はとりわけ凄惨な状況だ。鎮痛剤が原因の死亡率は、ケンタッキー州との州境となる南部のカウンティ(郡)に限れば2倍近くに跳ね上がる。

 ウェストバージニア州で鎮痛剤が広がった発端は、厳しい炭坑労働にある。

 大規模な露天掘りの炭坑が主流のワイオミング州とは異なり、ウェストバージニアの炭坑は地下炭坑が中心だった。狭い坑道で、無理な姿勢での作業が続くため、背中や首、膝などを痛める炭坑労働者は少なくない。だが、ケガをしてもすぐに現場に戻らなければならず、痛み止めを打ってその場をしのぐ。そうしているうちに、ドラッグ中毒に陥ってしまう。

 「ほとんどの炭坑労働者がケガの影響でリタイアする。私も数年前に膝の手術をした」

 昨年まで40年にわたって炭坑で働いたトニー・ベスコーニは言う。彼は今、南部のベックリーにある炭坑ミュージアムでガイドを務めている。閉山した坑道の中で、どのような作業が続いたのか再現してもらったが、背丈よりも低い坑道で石炭を採掘する作業は想像以上に過酷だ。

 もっとも、2000年代初頭の死亡者数は全米平均とさして変わりなかった。それを考えると、オピオイド系鎮痛剤がこの地域で乱用された最大の要因は、医師による安易な処方にあると見られる。

 ウェストバージニア州南西部のカーミット。人口わずか400人の小さな集落だが、ここにあった薬局は年間に600万ドル(6億6000万円)を超える売り上げを上げていた。その多くは鎮痛剤の販売によるものだ。チャールストンの地元紙Gazette-Mailによれば、同じオピオイド系鎮痛剤で中毒性が極めて高いヒドロコドンの錠剤がわずか2年の間に900万錠も卸されていた。

 「今回のエピデミックには4つの構成要素がある。鎮痛剤を求める個人、安易に処方箋を書く医師、その医師と結託している薬剤師、中毒が広がる中で鎮痛剤を卸し続けた医薬品卸だ。率直に言って、利得のために必要のない人にまでオピオイド系鎮痛剤を処方した」

 チャールストン在住の弁護士、ジェームズ・ケーグルはこう指摘する。彼は州政府の代理人として2012年に医薬品卸13社を訴えた。訴訟は卸会社が州政府に合計4700万ドル(約51億円)を支払うことで和解している。

 「息子がオキシコンチン(オピオイド系鎮痛剤の一つ)の過剰摂取で死亡した家族の弁護を引き受けたのがそもそもの始まりです。その訴訟の中で医薬品卸が演じている役割に気づき、医薬品卸に焦点を絞ったんです。オピオイド系鎮痛剤のエピデミックによって、州は年に数億ドルものコストを負担している。その被害は甚大です」

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