米大統領、ドナルド・トランプを熱狂的に支持する州がある。その人々は、トランプ政権にどんな夢と未来を描いているのか。その地域を徹底取材してリポートする。そこから、トランプが描く「米国の未来」と現実が浮かび上がる。

 「石炭産業を復活させる」。トランプは経済政策の目玉にそんな構想を打ち上げている。石炭を後押しするために、オバマ政権時代の厳しい環境規制も撤廃する、と。

 その言葉に、ウェストバージニア州が呼応した。かつて石炭産業で活況を呈した地域はトランプの言葉に熱狂していく。昨年11月の大統領選挙では、トランプが炭坑用のヘルメットを被って演説する姿が報じられた。そして、選挙では圧倒的な票が、トランプに投じられた。それは、州の主要産業である石炭産業が衰退し、地域社会が崩壊に向かいつつあることへの危機感でもあった。

 その地で、何が起きているのか。「トランプの米国」に未来はあるのか。

=敬称略(ニューヨーク支局 篠原匡、長野光)

 米国東部を南北に貫くアパラチア山脈、その西麓にウェストバージニア州は位置する。“Mountain State(山岳州)”というニックネームが示すように山と森に覆われた緑豊かな地域である。ところが、最近はその名に似つかわしくない不名誉な数字によって、全米の注目を浴びている。それはドラッグの蔓延と、その過剰摂取による中毒死の激増だ。

 それは、石炭産業と密に関係する悲劇だった。

 様々なドラッグが蔓延する中で、目立って多いのがオピオイド系鎮痛剤だ。医師によって処方される薬だが、炭坑の作業で体を酷使する労働者が痛みを訴えると、そのたびに投与されてきた。だが常習性が高く、そのまま中毒患者になるケースが後を絶たない。米疾病対策センター(CDC)によれば、ドラッグの過剰摂取による死亡者数(人口10万人当たり)は、全米平均が16.3人なのに対して、ウェストバージニア州は41.5人で、約2.5倍にも達している。

 この異常値は、地域社会に大きな影響を与え始めている。

家庭と教育の崩壊

 州都チャールストンから北に50分ほど。農地や牧草地が広がる街道を走り抜けると、目指していた小学校に着いた。“Cottageville Elementary School(コテージビル小学校)”。人口1800人ほどのコテージビルにある公立小学校である。この小学校では、全校生徒135人のおよそ3分の1が、祖父母や里親など遺伝上の両親とは異なる保護者によって育てられている。

 「授業の内容についていけず、卒業が危ぶまれる子供が増えています。その家庭環境を見ていくと、実の親に育てられていない。そんな状況になった原因をさかのぼっていくと、ほぼドラッグがらみの問題にたどりつきます。これは、異常な状態だと言わざるをえません」。5年前から校長になったトレーシー・ルマスターは、そう打ち明ける。

 現代社会で、実の両親と暮らしていない子供は珍しいことではない。それでも、全校生徒の3分の1という数字は異常値と言っていい。ドラッグが原因となれば、なおさらその異常性が際立つ。

 この小学校に通う姉妹、ブリアーナとライリーも、10年に満たない人生ながら、厳しい生活を送ってきた。

 実の両親は薬物に溺れ、育児ができる状況ではなかった。生まれて間もなくは、祖父が育てていたが、彼が死亡すると、薬物中毒だった実の母親に引き取られた。だが、クスリに溺れる母親との生活は凄惨で、屋根が崩れ落ちたような家屋に身を寄せ、真冬でも半袖姿だった。その光景を目にした地域のソーシャルワーカーが警察に通報したことで、母親の元から離れ、里親と暮らすことになった。

 「この子たちを育てるうえで難しいことは、彼女たちが心に深い傷を負っているということです。たくさんの荷物を持ってこの家に来ましたが、この子たちの持ち物の何がネガティブな記憶に結びついているのか分かりません。どんなことが彼女たちの恐ろしい記憶や悪夢を蘇らせてしまうのか、分からないんです。まるで巨大なジグソーパズルに取り組んでいるようです」

 2014年に姉妹の「母親」になったキャリー・ソトメイヤーは語る。ソトメイヤー家に来た当初、二人は大人を信用していなかったという。

ソトメイヤー夫妻と二人の姉妹

 親戚や里親に預かってもらった子供たちは、まだ幸せな方かもしれない。

 「自分で自分を育て始める」

 校長のルマスターがそう表現するように、親がドラッグ中毒になると、食事や洗濯など、子供の世話がおろそかになる。学校にいれば、朝食や昼食を無料で食べることができるが、週末や長期休暇に入れば食料すら困窮することになりかねない。そこで、ルマスターは寄付で集めた食料を子供に渡す「スナックパック・プログラム」を始めた。週末に食料が何も与えられない時のための非常食だ。

 家庭でネグレクト(養育放棄)が疑われる場合、学校関係者は当局に通報する義務がある。スナックパックはネグレクトまでは至っていないが、その可能性がある家庭に対する学校としての精一杯の対応だ。毎週金曜日、15人の子供に与えている。